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判例チェック №63 最高裁大法廷平成27年3月4日判決・平成24年(受)第1478号 損害賠償請求事件

判例チェック №63
最高裁大法廷平成27年3月4日判決・平成24年(受)第1478号 損害賠償請求事件
(出典最高裁ホームページ)
★チェックポイント
被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償債権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したとき、これらの支給又は年金支給額の確定により損害賠償債権は消滅するところ、その消滅(充当)の効果は、遅延損害金債権に先んじてまず元本債権につき生じるか(積極)。
■事案の概要
過度の飲酒による急性アルコール中毒から心停止に至り死亡したAの相続人である上告人ら(両親)は,Aが死亡したのは,長時間の時間外労働等による心理的負荷の蓄積によって精神障害を発症し,正常な判断能力を欠く状態で飲酒をしたためであると主張して,Aを雇用していた被上告人に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,損害賠償を求めた。
 原審は、「被上告人は,Aの死亡について,被上告人の従業員がAに対する安全配慮義務を怠ったことを理由として,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償義務を負う」として、Aの逸失利益、死亡慰謝料、父母である上告人らの固有の慰謝料、父である上告人が支出した葬儀費用、以上の合計額から三割の過失相殺をしたのち、上告人各自につき、労災保険法に基づく葬祭料(受領済)、支給済及び原審口頭弁論終結時における支給確定済の遺族補償年金額を控除し、残額及びその遅延損害金の支払を命じた(本件最高裁判決の判文から推測すると、その他に弁護士費用も支払が命じられているようである)。
 これに対し上告理由は、遺族補償年金についてAの死亡による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整をした原審の判断は,遺族補償年金等がその支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであるとした最高裁平成16年(受)第525号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号987頁に反するというものである。
■判旨
本件大法廷判決は上告を棄却したが、その理由の要旨は次のとおりである。
1 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,損害賠償額を算定するに当たり,上記の遺族補償年金につき,その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。
2 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである。
★コメント
 本判例と同種の事例については、従来は、遺族補償年金相当額は損益相殺の益金として損害賠償債務のうち元金又は遅延損害金のいずれに充当されるべきかの問題として捉えられてきたが、本判例は、見解を改め、損益相殺的調整の問題と捉えている。その上で本判例は、要するに、遺族補償年金等がその支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであるとした上告理由を否定したものである。その結果従前理解に立って現実的にいうならば、損益相殺の利益部分はまず損害賠償債務の元本部分に充当されることになり、本判例の見解に従えばチェックポイント記載のとおりに要約できる。
 今後同種事例の参考に、本判例の理由を紹介する。
1 本判例の要旨1の理由(同性質性と相互補完性)
 被害者が不法行為によって死亡し,その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を相続人が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図ることが必要なときがあり得るところ、労災保険法に基づく保険給付は,その制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額を塡補するために支給されるものであり,遺族補償年金は,労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を塡補することを目的とするものであって(労災保険法1条,16条の2から16条の4まで),その塡補の対象とする損害は,被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり,かつ,相互補完性があるものと解される。よって相続人が受ける利益が,被害者の死亡に関する労災保険法に基づく保険給付であるときは,民事上の損害賠償の対象となる損害のうち,当該保険給付による塡補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有するものについて,損益相殺的な調整を図るべきものと解される。
 これに対し、損害の元本に対する遅延損害金に係る債権は,飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから,遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は,遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって,遺族補償年金による塡補の対象となる損害が,遅延損害金と同性質であるということも,相互補完性があるということもできない。
2 本判例の要旨2の理由(将来給付の確定性)
 不法行為による損害賠償債務は,不法行為の時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく遅滞に陥るものと解されており,被害者が不法行為によって死亡した場合において,不法行為の時から相当な時間が経過した後に得られたはずの利益を喪失したという損害についても,不法行為の時に発生したものとしてその額を算定する必要が生ずる。しかし,この算定は,事柄の性質上,不確実,不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないもので,中間利息の控除等も含め,法的安定性を維持しつつ公平かつ迅速な損害賠償額の算定の仕組みを確保するという観点からの要請等をも考慮した上で行うことが相当であるといえるものである。
 遺族補償年金は,労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失の塡補を目的とする保険給付であり,その目的に従い,法令に基づき,定められた額が定められた時期に定期的に支給されるものとされているが(労災保険法9条3項,16条の3第1項参照),これは,遺族の被扶養利益の喪失が現実化する都度ないし現実化するのに対応して,その支給を行うことを制度上予定しているものと解されるのであって,制度の趣旨に沿った支給がされる限り,その支給分については当該遺族に被扶養利益の喪失が生じなかったとみることが相当である。そして,上記の支給に係る損害が被害者の逸失利益等の消極損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有することは,上記のとおりである。
 上述した損害の算定の在り方と上記のような遺族補償年金の給付の意義等に照らせば,不法行為により死亡した被害者の相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定することにより,上記相続人が喪失した被扶養利益が塡補されたこととなる場合には,その限度で,被害者の逸失利益等の消極損害は現実にはないものと評価できる。