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判例チェック №64 最高裁第1小法廷平成27年4月9日判決・平成24年(受)第1948号 損害賠償請求事件

判例チェック №64
最高裁第1小法廷平成27年4月9日判決・平成24年(受)第1948号 損害賠償請求事件
(出典最高裁ホームページ)
★チェックポイント
責任を弁識する能力のない未成年者が他人に損害を加えた場合において,その親権者が民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったとされた事例
■事案の概要
自動二輪車を運転して小学校の校庭横の道路を進行していたB(当時85歳)が,その校庭から転がり出てきたサッカーボールを避けようとして転倒して負傷し,その後死亡したことにつき,同人の権利義務を承継した被上告人らが,上記サッカーボールを蹴ったC(当時満11歳11箇月の男子児童)の父母である上告人らに対し,民法709条又は714条1項に基づく損害賠償を請求した。上告人らがCに対する監督義務を怠らなかったかどうかが争われている。
(1)  C(平成4年3月生まれ)は,平成16年2月当時,愛媛県越智郡D町立(現在は今治市立)E小学校(以下「本件小学校」という。)に通学していた児童である。
(2) 本件小学校は,放課後,児童らに対して校庭(以下「本件校庭」という。)を開放していた。本件校庭の南端近くには,ゴールネットが張られたサッカーゴール(以下「本件ゴール」という。)が設置されていた。本件ゴールの後方約10mの場所には門扉の高さ約1.3mの門(以下「南門」という。)があり,その左右には本件校庭の南端に沿って高さ約1.2mのネットフェンスが設置されていた。また,本件校庭の南側には幅約1.8mの側溝を隔てて道路(以下「本件道路」という。)があり,南門と本件道路との間には橋が架けられていた。本件小学校の周辺には田畑も存在し,本件道路の交通量は少なかった。
(3) Cは,平成16年2月25日の放課後,本件校庭において,友人らと共にサッカーボールを用いてフリーキックの練習をしていた。Cが,同日午後5時16分頃,本件ゴールに向かってボールを蹴ったところ,そのボールは,本件校庭から南門の門扉の上を越えて橋の上を転がり,本件道路上に出た。折から自動二輪車を運転して本件道路を西方向に進行してきたB(大正7年3月生まれ)は,そのボールを避けようとして転倒した(以下,この事故を「本件事故」という。)。
(4) Bは,本件事故により左脛骨及び左腓骨骨折等の傷害を負い,入院中の平成17年7月10日,誤嚥性肺炎により死亡した。
(5) 上告人らは,Cの親権者であり,危険な行為に及ばないよう日頃からCに通常のしつけを施してきた。
■判旨
満11歳11箇月の男子児童であるCが本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったことは,ボールが本件道路に転がり出る可能性があり,本件道路を通行する第三者との関係では危険性を有する行為であったということができるものではあるが,Cは,友人らと共に,放課後,児童らのために開放されていた本件校庭において,使用可能な状態で設置されていた本件ゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり,このようなCの行為自体は,本件ゴールの後方に本件道路があることを考慮に入れても,本件校庭の日常的な使用方法として通常の行為である。また,本件ゴールにはゴールネットが張られ,その後方約10mの場所には本件校庭の南端に沿って南門及びネットフェンスが設置され,これらと本件道路との間には幅約1.8mの側溝があったのであり,本件ゴールに向けてボールを蹴ったとしても,ボールが本件道路上に出ることが常態であったものとはみられない。本件事故は,Cが本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったところ,ボールが南門の門扉の上を越えて南門の前に架けられた橋の上を転がり,本件道路上に出たことにより,折から同所を進行していたBがこれを避けようとして生じたものであって,Cが,殊更に本件道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。
責任能力のない未成年者の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが,本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,上記各事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。また,親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。
Cの父母である上告人らは,危険な行為に及ばないよう日頃からCに通常のしつけをしていたというのであり,Cの本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。そうすると,本件の事実関係に照らせば,上告人らは,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。
★コメント
親権者が負担する未成年者が加害行為をしないよう監督すべき義務は,未成年者の行為についての一般的な監督行為をすべき義務とされるが,具体的事情から加害行為の危険を全く予見できず監督の必要が認められないような場合にも監督義務があるか。一般的にいえば監督義務者の民法714条の責任を認める判例は多いが,同条はドイツ民法832条に倣ったものとされる(山本進一「注釈民法(19)」255頁)ところ,ドイツ民法832条は「監督義務者ガ(中略)適当ナル監督ヲ為スモ尚損害ガ生ズベカリシトキハ,賠償義務ヲ生ゼズ」(現代外国法典叢書独逸民法[?]792頁)と定めている。
本判例は,親権者がその直接的監視下にない未成年者の行動について,日頃から人身に危険が及ばないように注意して行動するよう日頃から指導監督しており,未成年者の行為が通常は人身に危険が及ぶようなものではないのに,それがたまたま人身に損害を生じさせた場合には,当該行為が具体的に予見可能であったなど特別の事情がない限り,監督義務を尽くしていたものといえるとして,民法714条1項本文の適用を否定したものである。