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判例チェック №65 高裁第一小法廷平成27年3月26日決定・平成26年(許)第39号株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

判例チェック №65
最高裁第一小法廷平成27年3月26日決定・平成26年(許)第39号株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
(出典最高裁ホームページ)
★チェックポイント
?非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことができるか(消極)
■事案の概要
株式会社A(以下「A社」という。)は,非上場会社であり,株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあった。抗告人はA社の株主である。相手方はA社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併(以下「本件吸収合併」という。)をする旨の合併契約を締結し,A社の株主総会において,上記契約を承認する旨の決議がされた。抗告人は,上記株主総会に先立ち,本件吸収合併に反対する旨をA社に通知した上,上記株主総会において本件吸収合併に反対し,A社に対し,上記株式を公正な価格で買い取ることを請求したが,その価格の決定につき協議が調わないため,抗告人が,会社法786条2項に基づき,価格の決定の申立てをした(本件吸収合併の効力が発生し,A社は相手方に吸収合併された。)。
この価格決定手続において,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法(将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定する方法をいう。)を用いて株式の買取価格を決定する場合に,当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価(以下「非流動性ディスカウント」という。)を行うことができるか否かが争われた。
原審は,この問題につき,「吸収合併に反対して会社からの退出を選択した株主には,吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保すべきところ,A社の株式の換価は困難であり,このことは株式の経済的価値自体に影響を与えているというべきであるから,株式の換価の困難性を考慮することが裁判所の合理的な裁量を超えるものということはできない。抗告人は収益還元法を採用する限りは非流動性ディスカウントを行うことはできないと主張するが,抗告人の享受していた財産的地位は換価の困難性を反映したものというべきであ」るとして,積極説を採った。
■判旨
非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。
★コメント
判旨の理由とするところは以下のとおりである。
「会社法786条2項に基づき株式の価格の決定の申立てを受けた裁判所は,吸収 合併等に反対する株主に対し株式買取請求権が付与された趣旨に従い,その合理的 な裁量によって公正な価格を形成すべきものであるところ(最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参照),非上場会社の株式の価格の算定については,様々な評価手法が存在するが,どのような場合にどの評価手法を用いるかについては,裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。しかしながら,一定の評価手法を合理的であるとして,当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。
 非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは,相当でないというべきである。」
 企業価値の評価に当たり,企業の収益能力を基礎とする収益還元法と市場価格を基礎とする非流動性ディスカウント法は,理論的基礎を異にするものであり,その一部だけを接ぎ木することは矛盾であろう。また,非流動性ディスカウント理論を認めた場合,反対株主は非流動性ディスカウントによる減価額相当の不利益を受ける一方,反対に株式買取請求権行使により株式を買い受ける会社は,適正価格より減価額だけ安い価格で株式を取得できることになり,等価交換の原則に反するといえよう。