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判例チェックNo.68 最高裁判所第3小法廷平成27年9月15日判決・不当利得返還請求事件 ≪2015年10月6日投稿≫

判例チェック №68
最高裁判所第3小法廷平成27年9月15日判決・不当利得返還請求事件
(出典最高裁ホームページ)
★ チェックポイント
既に過払金が発生しているのに,継続的な金銭消費貸借取引の当事者間で成立した借主の貸主に対する残元利金債務の存在を確認しその分割支払をすること,及び,当事者間にはその余の債権債務が存在しないことを確認する旨の特定調停は,利息制限法・公序良俗に違反し無効であるか(消極)。
■事案の概要
1 本件事案を時系列で整理すると,
(1) 昭和62年9月16日 X(被上告人),A基本契約締結。X20万円を借り受け。
(2) 平成8年11月15日 X,貸金業者Bとの間で借受契約締結(これについての基本契約の成立日は判文上明らかでない。),B取引開始(Xの最終借受日は判決文上明らかでない。なおXB間の同日以降の借入及び返済の取引を「B取引」という。)
(3) 平成10年3月11日 XA,本件調停にかかる金銭消費貸借契約締結
(4) 平成14年3月20日 X,Aから本件調停にかかる取引最終借受
(X,A間の昭和62年9月16日から平成14年4月1日までの借入及び返済の取引を「A取引」という。)
(5)  平成14年6月14日 XA間特定調停(本件調停)成立。A取引終了。
本件調停では,XはAに対し借受金残元利金債務額444,467円を分割弁済するものとされた。ところが,その時点で,AのXに対する過払い金返還請求債権額は,2,349,614円,法定利息額は27,621円であった。
(6) 平成15年1月1日 Y(上告人),ABを吸収合併
2  XはY(上告人)に対し,Yとの間の継続的な各金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の制限利率を超えて利息として支払われた部分を各元金に充当するといずれも過払金が発生していると主張して,Yに対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金合計354万4715円及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払を求めて出訴した。
3 本件調停の「申立ての表示」欄には,「申立人と相手方との間の平成10年3月11日締結の金銭消費貸借契約に基づいて,申立人が相手方より同日から平成14年3月20日までの間に18回にわたって借り受けた合計金207万8322円の残債務額の確定と債務支払方法の協定を求める申立て」との記載があり,「調停条項」欄には,次のような調停条項の記載がある。
ア 被上告人は,Aに対し,借受金の残元利金合計44万4467円の支払義務のあることを認める(以下,この条項を「本件確認条項」という。)。
イ 被上告人は,Aに対し,本調停の席上で7467円を支払い,残金43万7000円を23回の分割払で支払う。
ウ 被上告人とAは,本件に関し,本件調停の調停条項に定めるほか,被上告人とAとの間には何らの債権債務のないことを相互に確認する(以下,この条項を 「本件清算条項」という。)。
そしてイの分割弁済は平成16年5月10日に皆済された。
4 原審は,Yに対し,A取引にかかる過払金2,794,081円(その内訳は,本件調停成立時の過払金額2,349,614円と本件調停に基づき支払われた残元利金444,467円の合計額)及び法定利息,B取引にかかる過払い金304,217円及び法定利息の支払を命じた。
その理由は,①「A取引については,本件調停が成立した時点で過払金234万9614円及び法定利息が生じていたにもかかわらず,本件確認条項は,被上告人がAに対する借受金の残元利金合計44万4467円の支払義務を認める内容のものであるから,利息制限法に違反するものとして,公序良俗に反し,無効であるというべきである。」,②「本件確認条項を前提とした本件清算条項のみを有効とするのは相当でないから,本件確認条項及び本件清算条項を含む本件調停は,全体として公序良俗に反し,無効であるというべきである。」というものである。
■ 本判例の要旨
1 本判決は,原判決理由①については,本件確認条項が如何なる法律関係についての和解であるかを問題にし,「前記事実関係によれば,本件調停は特定調停手続において成立したものであるところ,特定調停手続は,支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため,債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とするものであり,特定債務者の有する金銭債権の有無やその内容を確定等することを当然には予定していないといえる。本件調停における調停の目的は,A取引のうち特定の期間内に被上告人(X)がAから借り受けた借受金等の債務であると文言上明記され,本件調停の調停条項である本件確認条項及び本件清算条項も,上記調停の目的を前提とするものであるといえる。したがって,上記各条項の対象である被上告人とAとの間の権利義務関係も,特定債務者である被上告人のAに対する上記借受金等の債務に限られ,A取引によって生ずる被上告人のAに対する過払金返還請求権等の債権はこれに含まれないと解するのが相当である。」として,本件確認条項にかかる所定の金銭消費貸借契約の残債権額確認及びその支払債務と,本訴請求にかかる過払金返還請求権とは関連するにせよ別個の債権であることを指摘し,この見解を踏まえ,「本件確認条項は,上記借受金等の残債務として,上記特定の期間内の借受け及びこれに対する返済を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した残元利金を超えない金額の支払義務を確認する内容のものであって,それ自体が同法に違反するものとはいえない。」とした。
また,原判決理由②については,「本件清算条項に,A取引全体によって生ずる被上告人(X)のAに対する過払金返還請求権等の債権を特に対象とする旨の文言はないから,これによって同債権が消滅等するとはいえない。」とした。
そして,「以上によれば,本件確認条項及び本件清算条項を含む 本件調停が,全体として公序良俗に反するものということはできない。」として,原判決の判断を否定した。
2 その上で,本件判決は,「A取引が終了した平成14年6月14日までに発生した過払金返還請求権等は本件清算条項等によって消滅したとはいえないが,同日以降の支払は法律上の原因がないとはいえず(紹介者注:民法705条の非債弁済との趣旨であろうか。),過払金返還請求権等が発生したとはいえない。そうすると,Aとの継続的な金銭消費貸借取引に係る被上告人の請求は,A取引に係る過払金234万9614円,平成24年5月31日までに発生した法定利息119万8107円及び上記過払金に対する同年6月1日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で認容し,その余は棄却すべきである。」として,原判決及び第1審判決の一部を変更し,A取引にかかる本訴請求につき,上記限度において,XのYに対する請求を認容し,その余の請求を棄却した。
■ コメント
一般に調停で和解の性質を有する条項を定める場合には,如何なる権利義務についてであるかを明確にすべきことは言うまでもない。本件特定調停ではこの点を疎かにし,本件の下級審も本件特定調停の目的とする権利関係を誤解して判決したのが混乱を招いたといえるだろう。
本判決は第1審判決及び原審判決を「上告人は,被上告人に対し,401万0493円及びうち265万3831円に対する平成24年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被上告人のその余の請求を棄却する。」と変更している。この変更の結果と本判例要旨2のとおりのA取引にかかる請求認容額とは金額が相違するが,変更後の主文は,AB両取引にかかる請求認容額を合算したと理解できる。
しかし,本件調停に基づき支払われた借受金の残元利金合計44万4467円(「事案の概要」1(5)参照)が本判決でどのように取り扱われたかは,最高裁ホームページからは明らかではない。