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判例チェックNo.78 最高裁第3小法廷平成29年1月31日決定・平成28年(許)第45号投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する許可抗告事件(出典 最高裁HP)≪2017年2月22日投稿≫

★ チェックポイント
1 検索事業者が,有罪判決を受けた者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等の情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かの判断について,考慮するべき事情は何か。
2 ある者が有罪判決を受けた事実の記事等について,検索事業者が検索結果としてウェブサイトのURL等情報を提供する場合に,その者が当該事実を公表されない法的利益が当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情より優越することが明らかな場合,その者は検索事業者に対し,当該情報を検索結果から削除することを請求ができるか(積極)。

 

●決定要旨
1 検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,①当該事実の性質及び内容,②当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,③その者の社会的地位や影響力,④上記記事等の目的や意義,⑤上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,⑥上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものである。
2 その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。

 

■事案の概要
1 本件の経緯は次のとおりである。
(1) 抗告人Xは,児童買春をしたとの被疑事実に基づき,平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で逮捕され,同法違反の罪により罰金刑に処せられた。Xが上記容疑で逮捕された事実(以下「本件事実」という。)は逮捕当日に報道され,その内容の全部又は一部がインターネット上のウェブサイトの電子掲示板に多数回書き込まれた。
(2) 相手方Yは,利用者の求めに応じてインターネット上のウェブサイトを検索し,ウェブサイトを識別するための符号であるURLを検索結果として当該利用者に提供することを業として行う者(以下「検索事業者」という。)である(本件では電子掲示板の管理者である。)。
Yから上記のとおり検索結果の提供を受ける利用者が,Xの居住する県の名称及びXの氏名を条件として検索すると,当該利用者に対し,本決定の原々決定の引用する仮処分決定別紙検索結果一覧記載のウェブサイトにつき,URL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(以下「URL等情報」と総称する。)が提供されるが,この中には,本件事実等が書き込まれたウェブサイトのURL等情報(以下「本件検索結果」という。)が含まれる。
(3) Xは,Yに対し,人格権ないし人格的利益に基づき,本件検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てをしたところ,第1審裁判所はこれを認容する仮処分決定(以下「原々決定」という。)をしたが,原審はこれを取消し,申請を却下したので,Xが許可を受けて抗告をした。
2 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律3条2項は,特定電気通信役務提供者が特定電気通信による情報の送信防止措置を講じることができる旨を前提とした規定であるが,本件は,Yにこの送信停止措置をとるべき義務があるか否かが問題とされた。
本件決定は,要するに,送信防止措置を講じるべきYの義務は,Xにそのプライバシー権として保護される法的利益があるというだけで肯定されるべきではなく,他の要素(以下「考慮事項」という。)も考慮し,その上でXの法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較検討して、なおXの法的利益が優越することが明らかな場合に限り存在するとしている。
3 本件決定は「考慮事項」の例示として前記決定要旨1記載の6項目を挙げ,その検討に当たり次のような説示をしている。
(1) 本件決定の理由3(1)で「検索事業者は,インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し,同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し,利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが,この情報の収集,整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。」と説示するのは、検索結果の提供は検索事業者の表現の自由にも関連するとの指摘であろう。
(2) (1)の説示に続き、「検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。」と説示するのは,検察業者による検索結果の提供は国民の知る権利に属し思想及び表現の自由に資するものであり公益性があるとの指摘であろう。
(3) (2)の説示に続き、「検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針(筆者注 前記(1)のとおりの検索事業者の方針)に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割(筆者注 前記(2)の役割)に対する制約でもあるといえる。」と説示している。
(4) 本決定理由3(2)で「児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。」と説示している。
(5) (4)の説示に続き「本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。」と説示している。
4 そして本決定は、「以上の諸事情に照らすと、Xが妻子と共に生活し、」平成23年12月に当時施行の児童買春等に関する法律違反の罪で「罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても、本件事実を公表されない法的利益が優先することが明らかであるとはいえない。」として、Xの本件仮処分申立てを却下すべきものと判断した。

 

★コメント
本判例は,「忘れられる権利」についての最初の最高裁判例として注目されている。
本判例でXの権利の前提とされる「プライバシー」の言葉は,様々な事例で紛争解決基準として用いられているが,判例学説を通じてその概念・意義を客観的一般的に明確に定義しているとはいえない。本判例でも「みだりに」という曖昧な言葉を使用しているし,本件判例でもプライバシーの意義について最高裁判所の5つの判例を参照判例として引用しているが,本件と比較的類似しでいる弁護士法23条の2に関する最高裁昭和52年(オ)第323号同56年4月14日第三小廷判決・民集35巻3号620頁は,プライバシーの用語を用いず,一般に法律用語として定着している「名誉,信用」を用いている。このような概念の不明確かつ曖昧な用語が本決定の論理に大きく影響しているのだろう。