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判例チェックNo.80 最高裁判所第2小法廷平成29年5月10日決定・平成28年(許)26号 債権差押命令取消及び申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 (出典 最高裁HP)≪平成29年5月26日投稿≫

 

★チェックポイント
銀行が,輸入業者の輸入する商品に関して信用状を発行し,当該商品につき譲渡担保権の設定を受けた場合において,上記輸入業者が当該商品を直接占有したことがなくても,本件事例では,銀行は,上記輸入業者から占有改定の方法によりその引渡を受けており,輸入業者及び輸入業者から当該商品の譲渡を受けた者に対抗できるといえるか。(積極)

 

■事案の概要
1 本件は信用状を利用しての輸入の事例である。
信用状は,売主である輸出業者が輸入業者の取引銀行を支払人として振り出した為替手形について,支払人銀行が特に手形金支払いを約して交付する証書である。そして,輸出業者は,海上運送業者に売買の目的物の運送を委託し,運送証券の交付を受け,その取引銀行に信用状と運送証券と共に交付して為替手形の割引を受けることによって商品の代価を回収することができる。
一方,信用状を交付した銀行は,前記為替手形の支払と引き換えに運送証券の交付を受けるが,それは輸入業者が支払拒絶した場合の償還請求権を担保するためである。この場合の信用状が荷為替信用状といわれる。
2 本件事案では,
(1) 輸入業者X(以下「X」という。)は,取引銀行Y(以下「Y」という。)との間で,銀行取引約定,信用状取引に係る基本約定及び輸入担保荷物保管に関する約定を締結し,その中で,①XがYから信用状の発行を受けて輸入する商品につき,Yは,信用状条件に従って輸出業者の取引銀行等に対して補償債務を負担し,Xは,Yに対して償還債務等を負うこと,②Xは,上記償還債務等を担保するため,Yに対し上記の輸入商品に譲渡担保権を設定すること,③Yは,Xに対し上記輸入商品の貸渡しを行い,Xにその受領,通関手続,運搬及び処分等を行う権限を与えることを合意した。
(2) その上で,Xは,中国の輸出業者との間で本件商品の売買契約を締結し,またYは,Yが本件商品を輸入するについて信用状を発行し,これらの信用状に基づく(1)①の補償債務を弁済して,Xに対し,原決定別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の償還債務履行請求権等を取得した。
(3) Xは,本件商品の売主との間でこれに関する輸入契約を締結し,本件商品は,同輸入契約に基づいて,船舶により中国から大阪南港へ輸送され,平成27年1月5日から同年2月5日までの間に,同港に到着した。Xは,その頃,海運貨物取扱業者(以下「海貨業者」という。)に対して,本件商品の受領,通関手続及び転売先への運搬を委託した。
(4) Xは,遅くとも平成27年2月6日までに,株式会社T又はその承継会社である第三債務者(以下,これらを併せて「本件買主」という。)に対し,本件商品の一部(以下「本件転売商品」という。)を売り渡した。
(5) Xの上記(3)の委託を受けた海貨業者は,平成27年1月5日から同年2月6日までの間に,本件商品を大阪南港で受領し,通関手続を行った上で,自ら又はその再委託を受けた運送業者によって,本件転売商品を本件買主の指定先まで運搬した。Xは,本件商品を直接占有したことはなかった。なお,輸入取引においては,輸入業者から委託を受けた海貨業者によって輸入商品の受領及び通関手続が行われ,輸入業者が目的物を直接占有することなく転売を行うことは,一般的であった。また,信用状取引においては,信用状を発行した金融機関が輸入商品につき譲渡担保権の設定を受けることが一般的であり,Xの上記委託を受けた海貨業者には,本件商品が信用状取引によって輸入されたものであることが明らかにされていた。
(6) Xは,平成27年2月9日,再生手続開始の申立てをし,同月20日,再生手続開始の決定を受けた。Xは,上記申立てをしたことにより,前記(1)の銀行取引約定に基づき,前記(2)の償還債務履行請求権等に係る債務について期限の利益を失った。
(7) Yは,平成27年3月11日,大阪地方裁判所に対し,前記(2)の償還債務履行請求権等のうち,本件転売商品の輸入のためにYが負担した輸入代金に対応する部分を請求債権とし,前記(1)の譲渡担保権設定の合意に基づき本件商品に設定された譲渡担保権(以下「本件譲渡担保権」という。)に基づく物上代位権の行使として,Xの第三債務者に対する本件転売商品の各売買代金債権(以下「本件転売代金債権」という。)の差押えの申立て(以下「本件申立て」という。)をした。大阪地方裁判所は,同月26日,本件申立てに基づき,債権差押命令を発付した。
(8) Xは,本件譲渡担保権に基づく物上代位権を行使するためには,再生手続開始の時点で本件譲渡担保権につき対抗要件を具備している必要があるところ,Xが本件商品を直接占有していない以上,YがXから占有改定の方法により本件商品の引渡しを受けることはできず,Yは対抗要件を具備していないから,上記物上代位権を行使することはできないなどとして,上記(7)の命令の取消しを求める執行抗告をした。
大阪地方裁判所は,民事執行法20条,民訴法333条の規定に基づき,上記命令を取り消して,本件申立てを却下する旨の決定をしたため,Yが,同決定に対し,執行抗告をした。原審は,Yが占有改定の方法により本件商品の引渡しを受けたとして,本件譲渡担保権につき対抗要件を具備したことを認め,上記決定を取り消して,債権差押命令を発付すべきものとした。

 

■判旨
銀行が,輸入業者の輸入する商品に関して信用状を発行し,当該商品につき譲渡担保権の設定を受けた場合において,上記輸入業者が当該商品を直接占有したことがなくても,本件事例においては,銀行は上記輸入業者から占有改定の方法によりその引渡を受けたものと解するのが相当である。

 

★コメント
本判例は,上記判旨に続き、「上記の経緯(筆者注 前記「事案の概要 (2)」のとおり)によれば,Xは本件譲渡担保権の目的物である本件商品について直接占有したことはないものの,輸入取引においては,輸入業者から委託を受けた海貨業者によって輸入商品の受領等が行われ,輸入業者が目的物を直接占有することなく転売を行うことは,一般的であったというのであり,XとYとの間においては,このような輸入取引の実情の下,Yが,信用状の発行によって補償債務を負担することとされる商品について譲渡担保権の設定を受けるに当たり,Xに対し当該商品の貸渡しを行い,その受領,通関手続,運搬及び処分等の権限を与える旨の合意がされている。一方,Xの海貨業者に対する本件商品の受領等に関する委託も,本件商品の輸入につき信用状が発行され,同信用状を発行した金融機関が譲渡担保権者として本件商品の引渡しを占有改定の方法により受けることとされていることを当然の前提とするものであったといえる。そして,海貨業者は,上記の委託に基づいて本件商品を受領するなどしたものである。」したがって,Yは,輸入業者(X)から占有改定の方法により本件商品の引渡しを受けたものであり,再生手続開始の時点で対抗要件を具備しており、本件譲渡担保権を別除権として行使でき、本件譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、本件転売代金債権を差し押さえることができると判断している。
本判例の判例は,最高裁で判旨とされているところからすると、複雑な占有関係・契約関係の下における本件商品の占有改定の方法による引渡の有無についてのものであるが、引渡の時期を,到着港の海貨業者による本件商品受領時とするものであろう。また本件譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,本件転売代金債権を差し押さえることができることも明らかにしている。