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判例チェックNo.82 最高裁判所第一小法廷平成29年12月14日判決・平成29(受)675号建物明渡等請求事件(出典 最高裁HP)≪平成30年1月9日投稿≫

★ チェックポイント
不動産は,商法521条が商人間の留置権の目的物として定める「物」に当たるか(積極)

 
●判決要旨
不動産は,商法521条が商人間の留置権の目的物として定める「物」に当たると解するのが相当である。

 

■事案の内容
上告人Xは,生コンクリート製造販売等を目的とする会社,被上告人Yは,一般貨物自動車運送事業等を目的とする会社である。Xは,その所有する本件土地を平成18年12月,Yに対し賃貸して引き渡したが,平成26年5月この賃貸借契約を解除したので,賃貸借は終了した(なお判文には明記されていないが,事件名からすると,Yは本件土地上に建物を所有しているらしい。)。Yは,Xに対し,賃貸借終了前から運送委託契約により生じた運送委託料債権を有し,この債権は弁済期が到来していたところ,XはYに対し,本件土地の所有権に基づき,その明渡を請求したのに対し,Yは上記運送委託料債権を被担保債権とする商法521条の留置権が成立するからこれを援用するとの理由でXの請求を否定し,原審はYの主張を認めた。Xは,不動産は商法521条が定める「物」に該当しないとして上告した。
本判例は,同法521条の商事留置権は,不動産上にも成立すると判示するが,その理由は,民法においては「物」とは有体物であり,動産に限定されない(同法85条)し,留置権は「物」について成立するのみであって特に不動産を除外していない(同法205条),商事留置権を認める商法521条の趣旨は,商人間における信用取引の維持と安全を図る目的で,双方のために商行為となる行為によって生じた債権を担保するため,商行為によって債権者の占有に属した債務者所有の物等を目的物とする留置権を特に認めたものと解されること,不動産を対象とする商人間の取引が広く行われている実情からすると,不動産が商法521条の目的物となり得ると解することは,上記商法規定の趣旨にかなうものであることに求めている。

 

★ コメント
従来,不動産上に商事留置権が成立しないとする説は少数に止まっていたから,本判例は多数説に従ったものである。
なお,新潟地裁長岡支部昭和46年11月15日判決(判例時報681号72頁)の解説には「不動産を対象とする場合は,留置権の行使が認められる範囲はおのずと限界があると考えるべきである」「請負契約に基づく債務の履行として工事を実施し完了するまでの間,そしてまた,建物所有権と占有を注文者に移転させるまでの間,請負人が工事現場たる敷地を必要な範囲で事実上占有使用することは契約の性質上客観的に当然認められるべきものであって,その限度で土地利用を認めればよい。」「したがって請負人は,土地の競落人に対しては全く権利を主張し得ず,競落人からの建物収去土地明渡請求に対抗できなくなってしまうことになり,権利としては希薄なものであるといえる。」(山岸憲司「請負人の留置権行使が可能な範囲」ジュリスト増刊136頁以下)とされるものがある。