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判例チェックNo.84 最高裁第二小法廷平成30年6月1日判決・平成29年(受)第442号 地位確認等請求事件(出典最高裁ホームページ)《平成30年8月1日投稿》

★チェックポイント

1 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たるか(積極)

2 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かについての判断に当たっては,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきか(積極)

3 無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない場合があるか(積極)

 

■事案の概要

1 労働契約法20条は,例えば定年退職者の再雇用でみられるように,雇用者が労働者との労働契約で,期間の定めのある者(有期契約労働者)と,期間の定めのない者(無期契約労働者)との間で,労働契約の内容である労働条件において相違を設けている場合に,その相違が「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。),当該業務の内容または配置が変更される範囲その他の事情を考慮して,不合理であってはならない旨を定めている。

2 X(上告人)らは,セメント等の輸送事業を営むY(被上告人)と無期労働契約を締結し,就業規則に基づく賃金規定による賃金の支給を受け,バラセメントタンク車の乗務員(以下「バラ車乗務員」という。)として勤務していたが,Yを定年退職後,Yと有期労働契約を締結し,定年退職前と同種の労務に服している「嘱託社員」となり,嘱託社員就業規則の適用を受けていたところ,同規則では,前記賃金規定に比べ嘱託社員には賞与その他の臨時的給与及び退職金の支給がないなどの変更があった。またYは,平成22年4月以降,嘱託社員のうち,定年退職前から引き続きバラ車等の乗務員として勤務する者(以下「嘱託乗務員」という。)については,採用基準,賃金等について,「定年後再雇用者採用条件」を策定していた。これらによれば,Xらを含む嘱託乗務員の賃金(年収)は,定年退職前の79パーセント程度となることが想定された。

そこでXらは,Yに対し,Yと無期労働契約を締結して就業規則に基づく賃金規定の適用を受けている前記嘱託社員等の従業員とXらとの間には,労働契約法20条に違反する労働条件の相違があると主張して,主位的請求として,Xらが嘱託社員らと同様,就業規則・賃金規定の適用を受けるべき地位にあることの確認を求めるともに,労働契約に基づき,前記就業規則・賃金規定に基づき,就業規則・賃金規定により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,予備的に不法行為に基づき,前記差額に相当する額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めたところ,原審は,Xらの請求を全部棄却したので,Xらが上告した。

最高裁は,原判決のうち「精勤手当」についてのXらの損害賠償請求(予備的請求)に係る部分を破棄して同請求を認容し,また原判決のうち「超勤手当(時間外手当)」についてのXらの損害賠償請求に係る部分を破棄して,損害の有無及び額につき更に審理を尽くさせるため,原審に差し戻した。

 

■判旨

1 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮される事情に当たる。

2 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められる者であるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである。

3 判示認定の諸事情を考慮すると,嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても,正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で,嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

 

★コメント

1 本判例は,労働契約法20条は,同じ雇用者に雇用されている有期契約労働者と無期契約労働者間に,労働条件の相違があり,その相違が職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度),当該職務の内容や配置について変更の範囲その他の事情を考慮して,その相違が不合理と認められるものであってはならず,職務の内容等の違いに応じた均整の取れた処遇を求める規定と解している(この点では本判決と同日に言い渡された最高裁平成28年(受)第2299号,第2100号同30年6月1日第二小法廷判決を引用している。)

2 本判例での「労働条件の相違」に関する判示は,概ね以下のとおりである。

(1) 本判例は,労働契約法20条で問題とされる有期契約労働者と無期契約労働者間の労働条件の相違とは,本件では「職務の内容及び配置の変更の範囲」についての「相違」ではなく,労働契約が有期か無期かに係るものであるから,「その他の事情」についての「相違」であると説示している。

(2) 本判例は,労働条件の相違の判断において,労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合,個々の賃金項目に係る賃金は,通常,賃金項目ごとに,その趣旨を異にするから,有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目につき不合理か否かの判断に当たっては,当該賃金項目の趣旨により,その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なるべきである,したがって,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断に当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮するべきである,と説示している。

(3) 本判例は,労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である(前掲最高裁第二小法廷判決参照)。被上告人の嘱託乗務員と正社員との本件各賃金項目に係る労働条件の相違は,嘱託乗務員の賃金に関する労働条件が,正社員に適用される賃金規定等ではなく,嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約によって定められることにより生じているものであるから,当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって,嘱託乗務員と正社員の本件各賃金項目に係る労働条件は,同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる。」と判示している。

3 また,本判例は,以上に述べた見解に立ち,本件では,基本賃金,歩合給,基本給,能率給,職務給,調整給の金額などの事情を考慮し,嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても,正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で,嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,不合理であると認められないから,労働契約法20条にいう不合理と認められない,と説示している。

4 本判例の判旨1は,原判決中の「精勤手当及び超勤手当(時間外手当)に係る労働条件の相違が労働契約法20条に違反しないと判断した点は結論において是認できるが,これらの各手当に係る労働条件の相違が同条に違反しないとした部分は是認できない」ことの理由として説示されたものである。すなわち,「同条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲を考慮して,その相違が不合理であってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡の取れた処遇を求める規定であると解される」とし参照判例として前記最高裁判決を挙げている。

5 本判決は,理由4において,精勤手当及び超勤手当(時間外手当)を除く本件各賃金項目に係る労働条件の相違が同条に違反しないとした部分が是認できない理由として,「同条は,有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)の労働条件が,期間有期契約労働者と無期契約労働者との個々の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契労働者」という。)の労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して,その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される(最高裁平成28年(受)第2099号,第2100号同30年6月1日第二小法廷判決参照)。」と判示している。

6 本判例は,嘱託乗務員と正社員との精勤手当及び超勤手当(時間外手当)に係る労働条件の相違は,同条にいう不合理と認められるが(判決理由4(5)ア オ 同(6)イ),同条違反の労働条件の相違の場合であっても,同条の効力により,当該有期労働契約労働者の労働条件が比較対象の無期契約労働者のそれと同一のものとなるものではない(前記最高裁判決参照,なお同(6)イ),また,Yは,嘱託乗務員については,別に嘱託社員規則を定め,嘱託乗務員の賃金に関する労働条件を嘱託社員規則に基づく嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約により定めるものとしており,また,Yは,嘱託乗務員については従業員規則とは別に嘱託社員規則を定め,嘱託乗務員の賃金に関する労働条件を同規則に基づく嘱託社員労働契約によって定めることとし,嘱託社員労働契約の内容となる再雇用者採用条件は,精勤手当の定めはなく,嘱託乗務員に対する精勤手当の支給を予定していない,このような定めに鑑みれば,Xらが精勤手当の支給を受けることのできる労働契約条の地位にあるものと解することは困難であるなどとして,Xらが精勤手当及び超勤手当(時間外手当)を受けることができる契約上の地位にあることの確認を求める請求を棄却した(判決理由4(6)イ)。

しかし,本判決は,Xらの精勤手当に係る予備的請求については,YがXらに精勤手当を支給しないことは,同条に違反する違法な取扱であって,Yには過失があり,Xらが正社員であれば支給を受けることができた精勤手当額相当の損害賠償義務があり,時間外手当についても同様であるから,Xらのこれらの請求を棄却した原判決部分を取消し,Xらの損害の有無及び額を確定するため,原審に差し戻した。