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判例

判例チェック No.10 最高裁平成21年7月9日第1小法廷判決 損害賠償請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック No.10 
最高裁平成21年7月9日第1小法廷判決 損害賠償請求事件
 
(最高裁HP)
★チェックポイント
架空売上げの計上による有価証券報告書の不実記載を原因とする購入株式価格の下落に基づく株主の損害は、株式会社代表取締役が従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失によるとの主張が認められず、当該会社には株主に対する会社法350条の損害賠償責任がないとされた事例
■事案の概要
A株式会社は、ソフトウェアの開発等を業とする上場会社であるが、その従業員が営業成績を上げる目的で架空売上を計上したため、有価証券報告書に不実記載がされ、証券取引所は、それが上場廃止基準(財務諸表に虚偽記載があること)に抵触するおそれがあるとしてA社株式を監理ポストに割り当て、株価は大幅に下落した。A社株を購入し下落後株式を売却した被上告人は、架空売上げ計上は代表取締役に課せられた従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失の結果であると主張して、A株式会社に対し、会社法350条(改正前商法261条3項)に基づく損害賠償請求をした。第1審判決(東京地裁平成19年11月26日判決。判例時報1998号141頁)は同義務を認め、請求を一部認容した。
■本判例の要旨
本件判例は、「本件不正行為当時、上告人(A株式会社)は、職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し、C事業部について、営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し、それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え、監査法人との間で監査契約を締結し、当該監査法人及び上告人の財務部が、それぞれ定期的に、販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し、その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから、上告人は、通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止しうる程度の管理体制は整えていたものということができる。」とした上で、本件不正行為の態様は、「見かけ上は上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという、通常容易に想定しがたい方法によるものであった」し、「本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど、上告人の代表取締役である某において本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。」などの事由により、上告人代表取締役に本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできないとして、原判決を破棄し、被上告人の請求を棄却した。
■コメント
本件判例は事例判決であり、仮装売上計上による有価証券報告書の記載訂正を契機とした株価の低落による株主の損害につき、代表取締役の適切なリスク管理体制を構築すべき義務と結びつけて会社の損害賠償責任を問う珍しい事例であるが、過失を否定したことは取締役のリスク管理体制構築義務を認めた上でのことであろうか。しかしこのような義務の性質、その根拠、要件や、取締役の忠実義務の現象形態に過ぎないのかは明らかでなく、今後検討すべき課題であろう。
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