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判例

判例チェック No.14 最高裁判所第一小法廷平成21年7月16日判決

カテゴリ:判例
判例チェック No.14 
最高裁判所第一小法廷平成21年7月16日判決
 
(最高裁HP・判例集未搭載)
★ チェックポイント
特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員は、専門的な知識を有しない委託者との間で商品先物取引委託契約を締結する際には、委託者に対して利益相反の可能性が高い差玉向かいを行っていることの説明義務、また委託に基づいてする取引(委託玉)の実行として、自己の計算をもってする取引(自己玉)が成立しうる状態(委託玉と自己玉とが対当する結果)となった際には、その通知義務を負う。
■ 事案の概要
某商品取引所での商品先物取引は、「板寄せ」と称される競争売買の方式が採用されていたが、これは、立ち会いにおいて,同一限月の各商品につき,売付けと買付けの数量が合致したときに,そのときの値段を単一の約定値段とし,同数量の売付けと買付けについて売買約定を締結させるものである。取引所の会員である商品取引員は、同一限月の各商品につき委託に基づく同数量の売付けと買付けを有する場合や,同一限月の各商品につき,委託に基づく売付け又は買付けに対し,自己の計算をもってする同数量の買付け又は売付けを有する場合(以下,商品取引員が委託に基づいてする取引を「委託玉」といい,商品取引員が自己の計算をもってする取引を「自己玉」という。),その同数量の売付けと買付けについては,立会終了後に各取引所に申し出るだけで,当該立会の約定値段で売買約定を成立させること(以下,これを「バイカイ付け出し」という。)が認められていた。
商品取引員Yは、板寄せによる取引については,商品の種類及び限月ごとに,委託に基づく売付けと買付けを集計し,売付けと買付けの数量に差がある場合には(以下,この差を「差玉」という。),差玉の約1割から3割だけを商品取引所の立会に出し,立会終了後,委託に基づく同数量の売付けと買付けにつき,バイカイ付け出しにより売買約定を成立させ,また,立会に出されなかった差玉につき,対当する自己玉を建てて,バイカイ付け出しにより売買約定を成立させることを繰り返していた(以下,差玉の全部又は一定割合に対当する自己玉を建てることを繰り返す商品取引員の取引方法を「差玉向かい」という。)。
■ 本判例の要旨
商品先物取引を受託する商品取引員は,商法上の問屋であり(商法551条),委託者との間には,委任に関する規定が準用されるから(同法552条2項),商品取引員は,委託者に対し,委託の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,誠実かつ公正に,その業務を遂行する義務を負う(民法644条)。商品先物取引は,相場変動の大きい,リスクの高い取引であり,専門的な知識を有しない委託者には的確な投資判断を行うことが困難な取引であること,商品取引員が,上記委託者に対し,投資判断の材料となる情報を提供し,上記委託者が,上記情報を投資判断の材料として,商品取引員に対し,取引を委託するものであるのが一般的であることは,公知の事実であり,商品取引員と上記委託者との間の商品先物取引委託契約は,商品取引員から提供される情報に相応の信用性があることを前提にしているというべきである。そして,商品取引員が差玉向かいを行っている場合に取引が決済されると, 委託者全体の総益金が総損金より多いときには商品取引員に損失が生じ,委託者全体の総損金が総益金より多いときには商品取引員に利益が生ずる関係となるのであるから,商品取引員の行う差玉向かいには,委託者全体の総損金が総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在することが明らかである。そうすると,商品取引員が差玉向かいを行っているということは,商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視することのできない影響を与えるものというべきである。
したがって、少なくとも、特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者との間で商品先物取引委託契約を締結した場合,商品取引員は,上記委託契約上,商品取引員が差玉向かいを行っている特定の種類の商品先物取引を受託する前に,委託者に対し,その取引について差玉向かいを行っていること及び差玉向かいは商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負い,委託者が上記の説明を受けた上で上記取引を委託したときにも,自己玉を建てる都度,その自己玉に対当する委託玉を建てた委託者に対し,その委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となったことを通知する義務を負うというべきであり、Yには説明義務違反の債務不履行責任を負う。
■ コメント
本判例指摘のとおり、商品取引員は問屋であり、問屋は自己の名において他人の計算で契約を行う間接代理をするのであるから、本件事情の下では、差玉向かいは自己取引である。自己取引であっても、取引所価格があってそれによるならば無効ではないが、Yは、自己の望む価格で取引を成立させられる事情にあるから、情報格差のある委託者に対しては、信義則上、商品先物取引の受託前に、判決指摘の事情を十分に説明し、また委託の都度、判決指摘の事情を通知するべき義務があり、その債務不履行責任の結果損害賠償責任があるのは当然である。
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