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判例

判例チェック No15 東京高裁平成20年6月26日判決

カテゴリ:判例
判例チェック No15 
東京高裁平成20年6月26日判決
 
(判例時報2026号)
★チェックポイント
会社分割に伴う労働契約の承継に異議ある労働者が法律に定める協議の不履行等を理由に会社分割の無効を主張したが,会社分割に係る手続違反は認められないとして,労働契約の承継を有効とした判決。
■事案の概要
Y会社は,A会社の完全子会社であり,Xらは,Y会社のハードディスク(HDD)事業部門に従事していた。A会社は,平成14年4月ころ,B会社との間で,HDD事業に特化した合弁会社を設立する等の合意をし,両会社は,平成14年11月27日に,合弁会社C会社を設立した。
同年12月25日,Y会社は,新設分割によりHDD事業部門を会社分割してD会社を設立し(以下「本件会社分割」という。),D会社の発行株式はすべてY会社に割当・交付されたが,同日31日,Y会社は,当該D会社株式をすべてC会社に譲渡した。
B会社のHDD事業部門は,平成15年4月1日に吸収分割により,D会社に承継された。設立会社D会社へ承継される営業に含まれるとして,本件会社分割に係る分割計画書に記載された労働契約の相手方労働者であるXらが,Y会社に対し,労働契約上の権利を有することの確認等を求めた。
■本判決の要旨
「分割会社が5条協議を全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視し得る場合には,分割の無効原因となり得るものと解されるが,その義務違反が一部の労働者との間に生じたにすぎない場合等に,これを分割無効の原因とするのは相当でなく・・・一定の要件の下に,労働契約の承継に異議のある労働者について,分割会社との間で労働契約の承継の効力を争うことができる・・・会社分割においては,承継営業に主として従事する労働者等の労働契約を含め分割計画書に記載されたすべての権利義務が包括的に新設会社に承継される仕組みが取られており,会社分割制度においては,その制度目的から,会社分割により労働契約が承継される新設会社が分割会社より規模,資本力等において劣ることになるといった,会社分割により通常生じ得ると想定される事態がもたらす可能性のある不利益は当該労働者において甘受すべきものとされているものと考えられること,分割手続に瑕疵がありこれが分割無効原因になるときは分割無効の訴えによらなければこれを主張できないとされており,個々の労働者に労働承契約の承継の効果を争わせることは,この分割無効の訴えの制度の例外を認めるものであり,会社分割によって形成された法律関係の安定を阻害するものであることを考慮すれば,労働者が5条協議義務違反を主張して労働契約の承継の効果を争うことができるのは,このような会社分割による権利義務の承継関係の早期確定と安定の要請を考慮してもなお労働者の利益保護を優先させる必要があると考えられる場合に限定されるというべきである。この見地に立ってみれば,会社分割による労働契約の承継に異議のある労働者は,分割会社が,5条協議を全く行わなかった場合若しくは実質的にこれと同視し得る場合,または,5条協議の態様,内容がこれを義務づけた上記規定の趣旨を没却するものであり,そのため,当該労働者が会社分割により通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益を超える著しい不利益を被ることとなる場合に限って,当該労働者に係る労働契約を承継対象として分割計画書に記載する要件が欠けていることを主張して,分割会社との関係で,労働契約の承継の効果を争うことができるものと解するのが相当であるというべきである。」とした。
■コメント
会社分割は,平成12年改正により導入されたものであり,「株式会社または合同会社が,その事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後他の会社(承継会社)または分割により設立する会社(設立会社)に承継させることを目的とする会社の行為」である(江頭憲治郎「株式会社法」〔第2版〕800頁)。
会社分割の手続によれば,労働契約も分割計画書の定めに従い承継会社・設立会社に帰属させることができるが,労働契約の承継に関しては,分割会社は,分割労働承継2条1項に基づく通知をすべき日までに,労働者と協議をしなければならず(平成12年商法改正附則5条),具体的には,分割会社は,個々の労働者に対し,分割後当該労働者が勤務することになる会社の概要,当該労働者が承継会社・設立会社に承継される事業に主として従事する労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し,本人の希望を聴取した上で,当該労働者に係る労働契約の承継の有無,承継するとした場合または承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容,就業場所その他就業形態等について協議しなければならない(H12・12・27労働省告示第127号)。もっとも,会社と労働者との間に協議が成立することまで要求されるものではないとされている(江頭憲治郎「株式会社法」〔第2版〕811頁)。
本件は,旧商法時代の事案ではあるが,現在の会社法においても同様の手続が定められており,今後の会社分割に係る労働契約の承継の事案においても参考になるものと思われる(ただし,上告中)。
なお,本判決は,労働者の承継拒否権については,原判決(横浜地裁平成19年5月29日判決)と同様に否定した。
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