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判例

判例チェック No.16 最高裁平成22年1月19日第3小法廷判決

カテゴリ:判例
判例チェック No.16 
最高裁平成22年1月19日第3小法廷判決
 
(判例集未搭載)
★チェックポイント
 共有者の1人が共有不動産の全賃料を自己の収入として所得税の確定申告をして納税した場合、他の共有者に対し、事務管理をしたとしてその持分に応じて納税額を償還請求できるか(消極)。
■判旨
 共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付したとしても,他人のために事務を管理したということはできず,事務管理は成立しない。
■説明
事案の概要は、甲乙両名が均等の持分で共有する不動産を甲が賃貸し、収受した賃料全額を自己の所得として確定申告し、納税した。乙は、甲に対し、その収受した賃料を不当利得として返還請求したところ、甲は、甲の納税は、乙の事務管理に当たるから、納税額の半額を乙に償還請求できるとして、相殺を主張した。
本判例は、事務管理は成立しないという。その理由は、「所得税は,個人の収入金額から必要経費及び所定の控除額を控除して算出される所得金額を課税標準として,個人の所得に対して課される税であり,納税義務者は当該個人である。本来他人に帰属すべき収入を自己の収入として所得金額を計算したため税額を過大に申告した場合であっても,それにより当該他人が過大に申告された分の所得税の納税義務を負うわけではなく,申告をした者が申告に係る所得税額全額について納税義務を負うことになる。また,過大な申告をした者が申告に係る所得税を全額納付したとしても,これによって当該他人が本来負うべき納税義務が消滅するものではない。
したがって,共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付したとしても,過大に納付した分を含め,所得税の申告納付は自己の事務であるから、他人のために事務を管理したということはできず,事務管理は成立しないと解すべきである。このことは,市県民税についても同様である。」というものである。
 民法697条の「他人の事務」とは、当該事務の処理によって実現された結果が本人の法益に及んでいることがなければならない(金山正信「注釈民法(18)245頁」「事務管理の要件(谷口還暦記念(2)264頁」)。
申告納税方式をとる所得税は、所得を生じた納税義務者の確定申告により具体的租税債務を負担する。無申告等の場合は更正処分により納税義務が生じる。よって、共有者の1人(甲)が賃料全額を自己の所得として申告し納税したのは、その者の事務に過ぎない。他の共有者(乙)は、自己の所得を申告していないが、乙の納税義務は乙の申告又は更正処分により生じるものであるから、甲の申告は乙の納税義務を発生させるものではない。これは、租税実体法及び手続法においては原則として表示主義・形式主義がとられることから当然の事理である。甲は、過誤納税による還付金を受け、これとは別に、乙は、申告・更正処分による納税義務を生じることになるだけである。本件に関し事務管理を認めるのは、明らかな誤りである。
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