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判例

判例チェック No.17 最高裁平成21年1月19日第2小法廷判決

カテゴリ:判例
判例チェック No.17 
最高裁平成21年1月19日第2小法廷判決
 
(判例時報2032号45頁)
★チェックポイント
店舗の賃借人が、賃貸人の修繕義務不履行により被った営業利益相当の損害を賠償請求するにつき、賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降に被った損害についても、賠償請求をすることができるか。(消極)
■事案
賃借人Xは、Y1所有、Y1代表者Y2管理するビルの地下1階建物部分をカラオケ店営業目的で賃借し、営業していた。その後、複数回にわたり、建物の排水用ポンプの故障により汚水が噴出し、本件店舗部分が浸水し、Xはカラオケ店の営業ができなくなった。Y1が本件ビルの老朽化等を理由に本件賃貸借契約解除の意思表示を行う一方、XはY2に本件事故直後より本件ビルの修繕を求めていたが、Y2はこれに応じず、上記解除により本件賃貸借契約が即時解除されたとして、Xに本件店舗からの退去を要求するなどした。(調査会社によれば、本件ビルの設備等は、本件事故前老朽化による改装等の必要があるが、使用不能の状態にはなっていなかったと診断されている。)
XがY1の修繕義務の不履行に基づき営業利益の喪失等による損害賠償を求めて訴えを提起したところ、原審は本件事故の1ヵ月後からXの求める損害賠償の終期までの営業利益喪失のよる損害全てを認める判断をした。そこで、Yらが上告した。
■判旨
(1)事業用店舗の賃借人が,賃貸人の債務不履行により当該店舗で営業することができなくなった場合には,これにより賃借人に生じた営業利益喪失の損害は,債務不履行により通常生ずべき損害として民法416条1項により賃貸人にその賠償を求めることができると解するのが相当である。
(2)しかしながら,本件においては,・・・Y1が本件修繕義務を履行したとしても,老朽化して大規模な改修を必要としていた本件ビルにおいて,Xが本件賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。また,本件事故から約1年7か月を経過して本件本訴が提起された時点では,本件店舗部分における営業の再開は,いつ実現できるか分からない実現可能性の乏しいものとなっていたと解される。他方,Xが本件店舗部分で行っていたカラオケ店の営業は,本件店舗部分以外の場所では行うことができないものとは考えられないし,前記事実関係によれば,被上告人は,平成9年5月27日に,本件事故によるカラオケセット等の損傷に対し,合計3711万6646円の保険金の支払を受けているというのであるから,これによって,Xは,再びカラオケセット等を整備するのに必要な資金の少なくとも相当部分を取得したものと解される。
 そうすると,遅くとも,本件本訴が提起された時点においては,Xがカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく,本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて,その損害のすべてについての賠償を上告人Yらに請求することは,条理上認められないというべきであり,民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上,本件において,Xが上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償をYらに請求することはできないというべきである。
■コメント
本件では、Xの主張する営業利益の全ての賠償を認めず、Xが別の場所で営業を行うなど「損害回避又は減少」措置を行わなかった事情を考慮し、「条理上」損害賠償の請求を制限した点に特徴がある。
従来から債務不履行により損害を被った債権者に損害拡大を防止することが要求されたことがある(損害軽減義務)。債権者の損害軽減義務については、従来過失相殺を法的な根拠と解する見解が多かったが、本件では損害賠償の条理による制限という構成が示されている。
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