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判例

判例チェック No.18 最高裁平成21年11月9日第2小法廷判決

カテゴリ:判例
判例チェック No.18 
最高裁平成21年11月9日第2小法廷判決
 
(判例時報2064号56頁)
★チェックポイント
民法704条後段の規定の趣旨。
■事案
本件は,Xが,貸金業者Yとの間の継続的な金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,過払金の返還等を求めるとともに,民法704条後段に基づき過払金の返還請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償等の支払を求めた事案である。
原審は,Xの民法704条後段に基づく損害賠償請求を認容すべきものとした。すなわち,原審は,民法704条後段の規定が不法行為に関する規定とは別に設けられていること,善意の受益者については過失がある場合であってもその責任主体から除外されていることなどに照らすと,同条後段の規定は,悪意の受益者の不法行為責任を定めたものではなく,不当利得制度を支える公平の原理から,悪意の受益者に対し,その責任を加重し,特別の責任を定めたものと解するのが相当であるとして,悪意の受益者は,その受益に係る行為に不法行為法上の違法性が認められない場合であっても,民法704条後段に基づき,損害賠償責任を負うと考えた。
■判旨
不当利得制度は,ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に,法律が公平の観念に基づいて受益者にその利得の返還義務を負担させるものであり,不法行為に基づく損害賠償制度が,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであるのとは,その趣旨を異にする。不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。したがって,民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて,不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではないと解するのが相当である。
■コメント
民法704条後段の規定の趣旨を考える実益は,同規定の趣旨の解釈に応じてその損害賠償責任の成立要件が相違することにある。すなわち,同規定の趣旨を,原審のように悪意の受益者に対する責任を加重した特別の責任を定めたものと解する見解(特別責任説)によれば,悪意の受益者であれば,それだけで民法704条後段の損害賠償責任を負担することになる。これに対して,同規定の趣旨を,本判決のように,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを注意的に規定したものと解する見解(不法行為責任説)によれば,仮に悪意の受益者であっても,その不法行為の成否は,例えば一般不法行為であれば民法709条の成立要件を充足するか否かに係り,同条の要件充足性を別途検討する必要があることになる。
近時の過払金返還請求訴訟において,法定利息を定める民法704条前段の規定にとどまらず,損害賠償責任を定める民法704条後段の規定を活用しようとする訴えが相当数提起された結果,この点を判断する下級審判例が多く見られるようになっていた。本判決は民法704条後段の規定の趣旨について,最高裁の判断を示したものであり,重要な意義を有するものである。
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