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判例

判例チェック No.20 最高裁平成22年7月15日判決

カテゴリ:判例
判例チェック №20
最高裁平成22年7月15日判決・損害賠償請求事件

(最高裁ホームページ)
★チェックポイント
 A社がB社の株式を任意買い受ける場合に、取締役がした株式買い取り価格の決定に善管注意義務違反があるか(消極)
■裁判例の概要
(事案の概要)
 X(被上告人)はA社の株主、YnはA社の代表取締役又は取締役、B社はA社の子会社、C社はA社の完全子会社である。
 A社は、B社をC社に合併するため、B社の株式を1株5万円の買い取り価格(以下「本件買取価格」という。)で任意で買い受け(以下「本件取引」という。)、B社との間で株式交換契約を締結した。Xは、本件買取価格が不当に高額でありYnに取締役の善管注意義務違反があると主張して、会社法847条に基づき、同法423条1項の損害賠償責任を追及する訴訟を提起した。原判決では、本件買取価格は1万円と認めるのが相当とされ、本件買取価格との差額4万円に本件取引の買受株数を乗じた金額相当の支払が命じられている。
 本件取引に至ったのには、以下の事情がある。A社は、B社を含む傘下子会社をグループ企業として不動産賃貸斡旋のフランチャイズチェーン事業を展開し、B社は備品付マンスリーマンション事業を営み、設立時株式払込金額は5万円であり、その発行済株式総数の約3分の2に相当する6630株をA社が保有し、A社のフランチャイズ事業の加盟店もB社の株主となっている。A社は、経営戦略上、完全子会社に主要事業を担当させ、自社は持株会社とする事業再編計画を策定し、同計画に沿って、B社をC社に合併して、不動産賃貸管理業務事業を担当させる計画を立てた。
 A社には、社長の業務執行を補佐するための諮問機関として,役付取締役全員によって構成され,参加人及びその傘下のグループ各社の全般的な経営方針等を協議する経営会議が設置されている。経営会議には,Y1 が代表取締役 として,上告人Y2及び同Y3が取締役として出席し,B社とC社との合併に関する議題が協議された。そして,その席上, A社の重要な子会社であるB社は,完全子会社である必要があり,そのためには,B社もC社との合併前に完全子会社とする必要があること,B社を完全子会社とする方法は,A社の円滑な事業遂行を図る観点から,株式交換ではなく,可能な限り任意の合意に基づく買取りを実施すべきであること,その場合の買取価格は払込金額である5万円が適当であることなどが提案された。A社から上記提案につき助言を求められた弁護士は,基本的に経営判断の問題であり法的な問題はないこと,任意の買取りにおける価格設定は必要性とバランスの問題であり,合計金額もそれほど高額ではないから,B社の株主である重要な加盟店等との関係を良好に保つ必要性があるのであれば許容範囲である旨の意見を述べた。協議の結果,上記提案のとおり1株当たり5万円の買取価格(以下「本件買取価格」という。)でB社の株式の買取りを実施することが決定され(以下「本件決定」という。),併せて,当時A社との間で紛争が生じており買取りに応じないことが予想された株主については,株式交換の手続が必要となる旨の説明がされ,了承された。
A社は,B社を完全子会社とするために実施を予定していた株式交換に備え,監査法人等2社に株式交換比率の算定を依頼した。提出された交換比率算定書のB社の1株当たりの株式評価額は、6561円ないし1万9090円とされた。
A社は,本件決定に基づき,A社以外のB社の株主のうち,買取りに応じなかった1社を除く株主から,株式3160株を1株当たり5万円,代金総額1億5800万円で買い取ったのが本件取引である。
 その後,A,B両社間で株式交換契約が締結され,Aの株式1株について,参加人の株式0.192株の割合をもって割当交付するものとされた。
(判旨)
 前記事実関係によれば,本件取引は,B社をC社に合併して不動産賃貸管理等の事業を担わせるというA社のグループの事業再編計画の一環として,B社をA社の完全子会社とする目的で行われたものであるところ,このような事業再編計画の策定は,完全子会社とすることのメリットの評価を含め,将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。そして,この場合における株式取得の方法や価格についても,取締役において,株式の評価額のほか,取得の必要性,参加人の財務上の負担,株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ,その決定の過程,内容に著しく不合理な点がない限り,取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである。
 以上の見地からすると,A社がB社の株式を任意の合意に基づいて買い取ることは,円滑に株式取得を進める方法として合理性があるというべきであるし,その買取価格についても,B社の設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば,払込金額である5万円を基準とすることには,一般的にみて相応の合理性がないわけではなく,A社以外のB社の株主にはA社が事業の遂行上重要であると考えていた加盟店等が含まれており,買取りを円満に進めてそれらの加盟店等との友好関係を維持することが今後におけるA社及びその傘下のグループ企業各社の事業遂行のために有益であったことや,非上場株式であるB社の株式の評価額には相当の幅があり,事業再編の効果によるB社の企業価値の増加も期待できたことからすれば,株式交換に備えて算定されたB社の株式の評価額や実際の交換比率が前記のようなものであったとしても,買取価格を1株当たり5万円と決定したことが著しく不合理であるとはいい難い。そして,本件決定に至る過程においては,A社及びその傘下のグループ企業各社の全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され,弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されているのであって,その決定過程にも,何ら不合理な点は見当たらない。
 以上によれば,本件決定についてのYnの判断は,A社の取締役の判断として著しく不合理なものということはできないから,Ynが,A社の取締役としての善管注意義務に違反したということはできない。
●コメント
 グループの統括会社の取締役が、将来予測にわたる経営上の専門的判断の下で事業再編計画の策定として、統括会社の株式取得の方法や価格を決定するに当たっては、単に株式の評価額だけではなく、株式取得の必要性、統括会社の財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度などを総合的に考慮して決定できるのであって、これらを総合的に考慮したならば、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役の善管注意義務に違反はないとするものである。その決定過程に合理性があるかは、統括会社の権限ある機関の審査を経ているか、弁護士の意見が聴取されているかなどが判断基準としてあげられている。
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