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判例

判例チェック No.21 東京地裁平成22年5月22日判決

カテゴリ:判例
判例チェック №21
東京地裁平成22年5月22日判決
 
(金融法務事情1902号144頁)
★チェックポイント
1 株式会社の新設分割が詐害行為取消権の対象となることを肯定したうえで,新設分割会社が新設分割の対価として新設分割設立会社の全株式を取得したとしても当該新設分割が新設分割会社の債権者を害するものとされた事例。
2 詐害行為となる新設分割の目的資産が可分であり,当該新設分割を取り消し得る範囲は債権者の被保全債権の額が限度となるものの,その原状回復の方法としては,逸出した資産の現物返還に代えて価格賠償を請求することができるとされた事例。
事案の概要
リース事業等を営むXがクレープ飲食事業及び広告宣伝事業等を含むY1に対し,店舗内装に関する割賦販売契約の約定に基づく損害賠償金及び厨房什器設備等に関するリース契約の約定に基づく損害賠償金等(以下「本件債権」という。)の支払を求めるとともに,債務超過であったY1が新設分割(以下「本件会社分割」という。)によってクレープ飲食事業に関する権利義務を承継させたY2に対し,本件会社分割が詐害行為に該当するとして,詐害行為取消権に基づき本件会社分割の取消を請求するとともに,価格賠償として本件債権の元本合計額に相当する金員及びこれに対する本件会社分割を取り消す判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。
なお,本件会社分割によってY2が承継すべき資産は,Y1が保有する無担保資産が殆どであり,その余の資産が存在するか否かは不明である一方,承継すべき債務について,本件分割効力発生日にY1が重畳的債務引受をするとされた。また,設立時発行株式総数は400株(資本金2000万円)であり,その全株式がY1に交付された(ただし,その後,増資により,Y1の株式保有割合は28パーセント程度となった)。
Y1は,本件分割効力発生日以降,本社事務所を引き払い,従業員もなく,決算も含めた経理処理もされておらず,会社の実体はない。
判決の要旨
(1)本件会社分割の詐害性
「詐害行為取消権は,総債権者の共同担保となるべき債務者の一般財産(責任財産)を保全するための制度であるから,無資力である債務者が一般財産を減少させ得る法律行為をした場合に,これが債権者を害する債務者の一般財産減少行為,すなわち,詐害行為となるか否かについては,単に当該法律行為の前後において,計算上一般財産が減少したとはいえないときでも,一般財産の共同担保としての価値を実質的に毀損して,債権者が自己の有する債権について弁済を受けることがより困難となったと認められる場合には,詐害行為に該当する・・・本件会社分割により,一方で,被告Y1の保有する債権を中心とするほとんどの無担保の残存資産が逸出して同被告は会社としての実体がなくなり,他方で,同被告が対価として取得した被告Y2の株式は,非上場株式であり,株主が廉価で処分することは容易であっても,一般的には流動性が乏しく,被告Y1の債権者にとっては,株主名簿を閲覧する権利もなく(会社法125条2項),株券が発行されればより一層,これを保全することには著しい困難が伴い,更に強制執行の手続においても,その財産評価や換価をすることには著しい困難を伴うものと認めることができる。そうすると,本件会社分割により,同被告の一般財産の共同担保としての価値を実質的に毀損して,その債権者である原告が自己の有する本件被担保債権について弁済を受けることがより困難となったといえるから,本件会社分割には詐害性が認められる」
(2)取消範囲及び原状回復方法
「詐害行為取消権は,債権者の債権を保全するため,その債権を害すべき債務者の行為を取り消す権利であるから,債権者は原則として自己の有する被保全債権を超過して取消権を行使することはできない・・・そのため,詐害行為自体は単一の行為であっても,詐害行為の目的物が可分であるときは,その取消の範囲は,その債権者の被保全債権額を限度とし・・・ただし,目的物が不可分であるときは,その取消の範囲は,債権者の被保全債権額を超えても目的物全体に及ぶ・・・また,詐害行為の目的物の中に担保権が付された部分があるなど,その全部を取り消すことができないときは,その被担保債権額などを除いた一般財産につき,一部取消をするほかない・・・詐害行為が取り消されたときの原状回復の方法としては,詐害行為により逸出した財産を返還させることが可能でればできるだけその現物返還を認めるべきであり,これが不可能または著しく困難な場合には,逸出した財産の返還に代えてその価格賠償をさせることになる・・・詐害行為となる本件会社分割の目的物である上記資産(金銭債権及び固定資産)が,可分であることは明らかである。したがって,本件会社分割を詐害行為として取り消す範囲は,詐害行為の目的物が可分であるとして,債権者である原告の被保全債権の額,すなわち,1911万5040円を限度とするというべきである・・・本件会社分割が詐害行為として取り消されたときの原状回復の方法としては,本件会社分割により承継された資産を現物返還させることが可能であればできるだけこれを認めるべきであるが,本件会社分割により承継させた資産は,別紙4承継権利義務明細表に記載されたとおりに特定されるのみで,個別の権利として特定されておらず,さらに,本件会社分割の後,・・・新設分割設立会社が事業を継続していることからすると,上記資産に変動を生じさせていることは容易に推測できるのであり,債権者にとって,承継された上記資産を特定してこれを返還させることは著しく困難であると認めることができる。したがって,原告は,被告に対し,逸出した財産の現物返還に代えてその価格賠償を請求することができる」
■ コメント
 近時,会社資産を流出させて,一部の債権者を害する形で,会社分割が濫用されている事案が存しているところ,本判決は,このような現状に対し警鐘を鳴らすものであり,また詐害性の認定や取消の範囲等の認定に特徴を有しており,実務上参考になる。
 なお,本判決と同様に会社分割の濫用が問題となった裁判例として,福岡地判平成21年11月27日(否認権行使)や福岡地判平成22年1月14日(法人格否認の法理)がある。
以 上
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