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判例

判例チェック No.24 仙台高決平成8年12月4日

カテゴリ:判例
判例チェック №24 
仙台高決平成8年12月4日(家裁月報49巻5号89頁)
 
★チェックポイント
 家庭裁判所において,相続放棄の申述が熟慮期間内のものであるか否かを判断する場合には,その要件の欠缺が明らかでないときは,申述を受理すべきである。
■事案
Xらの被相続人は,平成7年11月14日に死亡した。Xらは,銀行のXらに対する平成8年3月19日付け書面により,被相続人が同銀行に対し約1億円の債務を負っていることを知り,その後,被相続人宛ての書面を調べてみたところ,被相続人が他にも漁業協同組合等に約1億3500万円の債務を負っていることを知った。Xらは家庭裁判所において相続放棄の申述をしたが,却下されたため,高等裁判所へ即時抗告した。
■判旨
「家庭裁判所が相続放棄の申述を不受理とした場合の不服申立ての方法としては,高等裁判所への即時抗告だけが認められているにすぎず,その不受理の効果に比べて,救済方法が必ずしも十分であるとはいえないから,家庭裁判所において,その申述が熟慮期間内のものであるか否かを判断する場合には,その要件の欠缺が明らかであるときに,これを却下すべきであるとしても,その欠缺が明らかであるといえないようなときは,申述を受理すべきものと解するのが相当である。そして,このように解しても,被相続人の債権者は,後日,訴訟手続で相続放棄の効果を争うことができるのであるから,債権者に対して不足の損害を生じさせることにはならない。」
■コメント
家庭裁判所が,相続放棄の申述を受理するか否かを判断する際に,何をどの程度審理することができるかについては,形式審査説(申述書が法定の形式的要件を具備するか否か,申述書に相続人と記載された者が熟慮期間内に申立てをしたか否かだけを審査)と実質的審査説(審判の範囲・程度については争いがある)の両説がある。
審判実務においては,被相続人の死亡後3ヶ月を経過した相続放棄申述事件について,実質的審査説に立ち,申述人に対する照会・審問などにより,一応の審理をし,3ヶ月以内に相続放棄の申述をしなかったことについて相当の理由がないと明らかに判断できる場合にだけ申述を却下し,それ以外の場合は申述を受理する実務が定着しているようである。
本判決は,家庭裁判所が相続放棄の申述を不受理とした場合に,申述人に認められる不服申立ての方法が不十分であり,他方,債権者は,家庭裁判所が相続放棄を受理してもなお,その効力を訴訟において争うことができる(最判昭和29年12月24日民集8.12.2310)ことから,相続放棄の要件の欠缺が明らかであるといえないようなときは,申述を受理すべきものであるとした。
本判決は,上記審判実務を肯定するものとして,実務上参考になる。
以上
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