本文へ移動

判例

判例チェック No.27 東京地裁平成18年5月15日判決

カテゴリ:判例
判例チェック№27 
東京地裁平成18年5月15日判決(判例時報1938号90頁)
 
★チェックポイント
建物賃借人たる株式会社の全株式が譲渡され,取締役等が変更された場合,賃借権の無断譲渡に当たるか(消極)。
事案の概要
本件は,原被告間において,原告が被告に本件建物を貸し渡す旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が締結されていたところ,被告において商号,役員,本店所在地を変更し,全株式がAに譲渡されたことが,賃借権の無断譲渡に当たるとして,原告が本件賃貸借契約を解除し,本件賃貸借の終了に基づき,被告に対し,本件建物の明渡し及び解除日以降の賃料等の支払を求めた事案である。
本件賃貸借契約には,「下記の場合には,甲(貸主)は,何らの催告を要しないで直ちに本契約を解除して乙(借主)に対して明渡を求めることが出来る。・・・2)賃借物件の一部又は全部につき,賃借権の譲渡,転貸をした場合。乙が他の債務により破産宣告,強制執行を受けた場合,株券譲渡,商号,役員変更等による脱法的無断賃借権の譲渡,転貸の場合を含む。」との特約(以下「本件特約条項」という。)があった。
本判例の要旨
「賃借人である法人の構成員や機関等に変動が生じても,法人格の同一性が失われるものではない。・・・M&Aにより被告の法人格が形骸化し,Aの法人格と同一視されるべきに至っていると認めるに足りる証拠は見当たらない。したがって,このような状況をとらえて,賃借権の譲渡があったものと認めることは相当ではない。」
「本件特約条項は,その文言上も,借主における株券譲渡,商号,役員変更等が直ちに賃借権の譲渡に当たると規定しているものではなく,このような手段による脱法的無断賃借権の譲渡が賃借権の譲渡に含まれる旨を記載しているにすぎない。また,実質的にみても,建物賃貸借関係においては,賃料の支払いの下に建物の使用を認めるものであるから,賃料の支払いの確実性と建物使用の態様が重視されるべき要素となるところ,本件においては,賃料の支払状況に変動はなく,将来の賃料支払の確実性についても,前述のようにAが東証一部上場企業であることに照らせば,確実性が高まりこそすれ,低くなることは考え難い。建物使用の態様についても,従前と同一の店名でラーメン・中華料理店を営業しているものと認められ,店長をはじめ従業員の大部分において交代が生じたとしても,もともと営業を目的として法人に店舗の賃貸をしている以上,従業員の交代等は借主の都合により当然に許容されるべきものであり,これをもって建物使用の態様に変更が生じたものと認めることもできず,他に使用形態自体に変更があることを認めるに足りる証拠はない。さらに,Aによる被告買収の主たる目的が承諾料等を支払うことなく,本件賃貸借による賃借権を取得することにあるものと認めることはできず,経営実権に変動が生じた借主が本件建物を賃借することになったとしても,それは,被告の法人組織全体がM&Aを受けたことにより,結果的に生じたものにすぎず,このような一連の流れにおいて被告の脱法的な意思の存在を窺わせるに足りる証拠もない。」
■ コメント
賃借人である会社の資本構成等の変動が賃借権の譲渡にあたるか,という問題については,最判平成8年10月14日(判例時報1586号73頁)が「貸借人が法人である場合において・・・構成員や機関に変動が生じても,法人格の同一性が失われるものではないから,賃借権の譲渡には当たらないと解すべきである。・・・貸借人に有限会社としての活動の実体がなく,その法人格が全く形骸化しているような場合はともかくとして,そのような事情が認められないのに・・・賃借権の譲渡に当たるとすることは,貸借人の法人格を無視するものであり,正当ではない。・・・賃貸人としては,有限会社の経営者である個人の資力,信用や同人との信頼関係を重視する場合には,右個人を相手方として賃貸借契約を締結し,あるいは,会社との間で賃貸借契約を締結する際に,賃借人が賃貸人の承諾を得ずに役員や資本構成を変動させたときは契約を解除することができる旨の特約をするなどの措置を講ずることができるのであり,賃借権の譲渡の有無につき右のように解しても,賃貸人の利益を不当に損なうものとはいえない。」と判示していたところ,本判決は,同判例を踏まえ,特約上の解除原因の存否についても具体的に判断しており,実務上参考になるものと思われる。
以上
弁護士法人
肥後橋法律事務所
 
〒550-0001
大阪市西区土佐堀1丁目3番7号 
肥後橋シミズビル10階
  TEL 06-6441-0645
  FAX 06-6441-0622
TOPへ戻る