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判例

判例チェック No.28 最高裁判所第二小法廷 平成23年04月22日判決

カテゴリ:判例
判例チェック№28 
最高裁判所第二小法廷 平成23年04月22日判決・損害賠償請求事件(出典 最高裁ホームページ)
 
★チェックポイント
契約の一方当事者が,契約締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,契約締結の可否に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかったとしても,相手方は契約締結により被った損害につき債務不履行責任を負うことはない。
■裁判例の概要
(事案の概要)
(1) 上告人は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合であり,平成14年7月31日,総代会の決議により解散した。
(2) 上告人は,平成6年に行われた監督官庁の立入検査において,資産の回収可能性等を基に査定された欠損見込額を前提とする自己資本比率の低下を指摘され,さらに,平成8年に行われた立入検査においても,資産の大部分を占める貸出金につき,欠損見込額が巨額になっており,上記自己資本比率がマイナス1.80%であって実質的な債務超過の状態にあるなどの指摘を受け,文書をもって早急な改善を求められたが,その後も上記の状態を解消することができないままであった。
(3) 平成10年ないし平成11年頃,上告人は,資産の欠損見込額を前提とすると債務超過の状態にあって,早晩監督官庁から破綻認定を受ける現実的な危険性があり,代表理事らは,このことを十分に認識し得たにもかかわらず,上告人の新大阪支店の支店長をして,被上告人らに対し,そのことを説明しないまま,上告人に出資するよう勧誘させた。
(4) 被上告人らは,上記の勧誘に応じ,平成11年3月2日,上告人に対し,各500万円の出資をした(以下,上記の各出資を「本件各出資」といい,本件各出資に係る上告人と各被上告人との間の各契約を「本件各出資契約」という。)。
(5) 上告人は,平成12年12月16日,金融再生委員会から,金融機能の再
生のための緊急措置に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)8条に基づく金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受け,その経営が破綻した。被上告人らは,これにより,本件各出資に係る持分の払戻しを受けることができなくなった。
そこで、被上告人らは、上告人に対し,主位的に,不法行為による損害賠償請求権又は出資契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき,予備的に,出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,各500万円及び遅延損害金の支払を求めた。原審は、主位的請求を棄却し、予備的請求を認容した。被上告人らは、上告しなかったので主位的請求棄却の判決は確定し、予備的請求である出資契約上の債務不履行による損害賠償請求の当否が争われた。
(判旨)
契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。
なぜなら,上記のように,一方当事者が信義則上の説明義務に違反したために,相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り,損害を被った場合には,後に締結された契約は,上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって,上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは,それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず,一種の背理であるといわざるを得ないからである。契約締結の準備段階においても,信義則が当事者間の法律関係を規律し,信義則上の義務が発生するからといって,その義務が当然にその後に締結された契約に基づくものであるということにならないことはいうまでもない。
このように解すると,上記のような場合の損害賠償請求権は不法行為により発生したものであるから,これには民法724条前段所定の3年の消滅時効が適用されることになるが,上記の消滅時効の制度趣旨や同条前段の起算点の定めに鑑みると,このことにより被害者の権利救済が不当に妨げられることにはならないものというべきである。
●コメント
契約責任と不法行為責任が競合する事例については、不法行為責任による解決を目指す方向が強まっているが、本判例もそのような傾向に与し理論的に一歩進めたもので、全文に当たるのも時間の無駄ではなかろう。
有力な学説(我妻榮「債権各論上巻」38頁参照)は、事実上契約によって結合された当事者間の関係は,何ら特別な関係のない者の間の責任(不法行為上の責任)以上の責任を生ずるとすることが信義則の要求するところであるとし,本件のように,契約は効力が生じたが,契約締結以前の準備段階における事由によって他方が損失を被った場合にも,「契約締結のための準備段階における過失」を契約上の責任として扱う場合の一つに挙げ,その具体例として,?素人が銀行に対して相談や問い合わせをした上で一定の契約を締結した場合に,その相談や問い合わせに対する銀行の指示に誤りがあって,顧客が損害を被ったときや,?電気器具販売業者が顧客に使用方法の指示を誤って,後でその品物を買った買主が損害を被ったときについて,契約における信義則を理由として損害賠償を認めるべきであるとするものがある。本判例中の千葉最高裁判事の補足意見は、この学説を引用し、説明義務違反が不法行為責任となり、説明義務の存否,内容,程度等は,当事者の立場や状況,交渉の経緯等の具体的な事情を前提にした上で,信義則により決められるものとされている。
判示を見る限りは、不法行為請求棄却判決に対する上告があれば破棄差し戻しもあり得たかも知れない。
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