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判例

判例チェック No.29 最高裁判所第1小法廷 平成23年3月24日判決

カテゴリ:判例
判例チェック No.29 
最高裁判所第1小法廷 平成23年3月24日判決・敷金等返還請求事件(出典 最高裁ホームページ)
 
★チェックポイント
居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,敷引金の額が高額に過ぎる場合は,賃料が相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,消費者契約法10条により無効である。
■裁判例の概要
(事案の概要)
上告人は,平成18年8月21日,被上告人との間で,京都市所在のマンションの一室(専有面積約65.5平方メートル。以下「本件建物」という。)を,賃借期間同日から平成20年8月20日まで,賃料1か月9万6000円、保証金40万円の約定で賃借する旨の本件賃貸借契約を締結し,本件建物の引渡しを受けた。この契約は,消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たるところ、保証金は明渡時に契約締結から明渡しまでの経過年数に応じた額を控除して(当該控除金員を「本件敷引金」という。)その残額を上告人に返還するとの特約があった。
本件契約は平成20年4月30日に終了し,上告人は,同日,被上告人に対し,本件建物を明け渡し、被上告人は,平成20年5月13日,特約に基づき,本件保証金から本件敷引金21万円を控除し,その残額である19万円を上告人に返還した。
そこで、上告人は、本件敷引金の返還を求めたが、原審は請求を棄却すべきものとした。その上告理由は、賃貸借においては,通常損耗等に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われるものであるのに,賃料に加えて通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる本件特約は,賃借人に二重の負担を負わせる不合理な特約であって,信義則に反し消費者の利益を一方的に害するから,消費者契約法10条により無効であるというものである。
(判旨)
居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,契約当事者間にその趣旨について別異に解すべき合意等のない限り,通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含むものというべきである。(中略)ところで,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであるから,賃借人は,特約のない限り,通常損耗等についての原状回復義務を負わず,その補修費用を負担する義務も負わない。そうすると,賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む本件特約は,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するものというべきである。
消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。
●コメント
本判例は、敷引特約は、賃借建物に生じる通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含むことを前提としたうえで、消費者契約に該当する居住用建物の賃貸借契約で敷引特約が消費者契約法10条に該当するか否かの判断においては、賃借人側が賃料額、礼金等の一時金の授受、金額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎることを主張立証すれば一応該当するものと推定され、これに対し、家主側において、約定賃料額が近傍同種の建物の賃料相場に大幅に定額であるなど特段の事情を主張立証すれば、一応の推定は破られるとするものである。そのうえで、最高裁は、本件賃貸借契約の経過年数、賃借家屋の場所、専有面積等に照らし、通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとはいえず、賃料額、礼金等の一時金の支払義務の存否を総合して、敷引金額が高額に過ぎると評価できないから、消費者契約法10条に違反しないと判断して原判決を維持した。
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