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判例

判例チェック No.31 最高裁判所第小法廷平成23年9月20日決定・債権差押命令申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件

カテゴリ:判例
判例チェック №31
最高裁判所第小法廷平成23年9月20日決定・債権差押命令申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件(最高裁ホームページ)

★チェックポイント
大規模な金融機関を対象として「全店一括順位付け方式」(全店舗を対象として順位付をし、先順位の店舗の預貯金債権の額が差押債権額に満たないときは、順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差し押さえるもの)は適法か(消極)
■ 事案の概要
執行債権者は、執行債務者に対する金銭債権を表示した債務名義による強制執行として,第三債務者A銀行他数行(いずれも大規模な金融機関である。)に対する預金債権並びに貯金債権の差押えを求める申立て(以下「本件申立て」という。)をし、その申立書において,差し押さえるべき債権(以下「差押債権」という。)を表示するに当たり,各第三債務者の全ての店舗又は貯金事務センター(以下,単に「店舗」という。)を対象として順位付けをした上,同一の店舗の預貯金債権については,先行の差押え又は仮差押えの有無,預貯金の種類等による順位付けをした(以下「全店一括順位付方式」という。)。
■ 本判例の要旨
(1) 民事執行規則133条2項の求める差押債権の特定とは,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当である。
(2) 本件申立ては,大規模な金融機関である第三債務者らの全ての店舗を対象として順位付けをし,先順位の店舗の預貯金債権の額が差押債権額に満たないときは,順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差押債権とする旨の差押えを求めるものであり,各第三債務者において,先順位の店舗の預貯金債権の全てについて,その存否及び先行の差押え又は仮差押えの有無,定期預金,普通預金等の種別,差押命令送達時点での残高等を調査して,差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り,後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しないのであるから,本件申立てにおける差押債権の表示は,送達を受けた第三債務者において上記の程度に速やかに確実に差し押えられた債権を識別することができるものであるということはできない。そうすると,本件申立ては,差押債権の特定を欠き不適法というべきである。
■ コメント
本件申立てのような全店一括順位付方式の債権差押えを認めると、第三債務者は、被差押え債権を識別するには、先順位の店舗から順次各店舗につき被差押え債権の総額を把握しなければならず、その作業の終了までには時間を要することは避けられない。ところが、民事執行法145条1項による債務者と第三債務者間の被差押え債権・債務関係の凍結の事態は差押え命令の第三債務者に対する送達時に開始される(同条4項)ことから、債権・債務関係の即時凍結から凍結の範囲を把握し対処するまでの間に更なる差押など被差押債権に関する新たな法律関係の変更が生じると第三債務者はこれに対応することは事実上不可能であるのに、その結果生じる法律関係の混乱の結果はすべて第三債務者の責任に帰されるのでは極めて不合理である。この点に注目する本決定は当然であろう。
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