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判例

判例チェック No.32 福岡高裁平成23年4月27日判決・損害賠償請求事件(金利スワップ契約)

カテゴリ:判例
判例チェック №32
福岡高裁平成23年4月27日判決・損害賠償請求事件(金利スワップ契約)(金融・商事判例1369号25頁)
 
★チェックポイント
「デリバティブ取引」の一つである通称プレーン・バニラ・金利スワップと呼ばれる「金利スワップ契約」を締結した顧客に対する銀行の説明義務違反を認めた判決。
事案
第1 概要
当該地方の中堅企業であるX会社(控訴人会社)がメガバンクのY銀行(被控訴人銀行)との間で円変動金利と円固定金利のみを交換する,デリバティブ取引の一つである通称プレーン・バニラ・金利スワップと呼ばれる契約(以下「本件金利スワップ契約」という。)を締結した際,Y銀行の従業員において,説明義務違反等があったとして,金融用品の販売等に関する法律(平成18年法律第66号による改正前のもの)4条,民法415条,同709条ないし715条に基づく損害賠償として,本件金利スワップ契約に基づいてX会社がY銀行に支払った金員相当額及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた(原審がX会社の請求を棄却したため,X会社が控訴した)。
なお,「金利スワップ取引」とは,金利を対象とするデリバティブ取引の一つで,同一通貨間で,一定の元本,期間,利息交換日及びそのサイクルを決定し,元本と切り離された互いの異なる種類の金利のみを交換する取引であり,その元本は計算上必要とされるだけなので,「想定元本」と呼ばれており,スワップの対象となる利息が固定金利と変動金利であるものは,金利スワップ取引の基本とされ,「プレーン・バニラ・金利スワップ」と称されている。
第2 本件金利スワップ契約の内容等
1. 本件金利スワップ契約 
  X会社は,平成16年3月4日,Y銀行との間において,複数の銀行からの借入が主に変動金利によるものであったため,変動金利リスクヘッジを目的として,以下のとおり想定元本を3億円とする本件金利スワップ契約を締結した。
  取引期間   平成17年3月8日から平成23年3月8日の6年間
X会社からY銀行への金利支払条件
 固定金利  年2.445%
支払日   平成17年6月8日から3か月毎の各8日
Y銀行からX会社への金利支払条件
 変動金利  指標金利(3か月TIBOR)+0%
 支払日   平成17年6月8日から3か月毎の各8日
2. X会社の差額金の支払い
X会社は,本件金利スワップ契約に基づき,Y銀行に対し,平成17年6月1日から平成18年6月7日までの間,5回にわたって,X会社の支払う固定金利に基づいて計算した利息の額からY銀行から受け取る変動金利に基づいて計算した利息の差額として,合計883万0355円を支払った。 
本判例の要旨
1. 説明義務違反
「専門的性質の契約等においては,その知識を有する当事者には,しからざる他方当事者に対する契約に付随する義務として,個々の相手方当事者の事例に見合った当該契約の性質に副った相当な程度の法的な説明義務があるとされる・・・本件金利スワップ契約も専門的性質の契約であることは明らかであるので,・・・それ相応の説明義務を果たす必要があった。しかし,本件銀行説明においては,・・・契約締結の是非の判断を左右する可能性のある,中途解約時における必要とされるかも知れない清算金につき,また,先スタート型とスポットスタート型の利害等につき,さらには契約締結の目的である狭義の変動金利リスクヘッジ機能の効果の判断に必須な,変動金利の基準金利がTIBORとされる場合の固定金利水準について,これがスワップ対象の金利同士の価値的均衡の観点からの妥当な範囲になること等の説明がなされなかったことからすると,同説明は,全体としては極めて不十分であったと言わざるを得ない」
2.社会経済的合理性の不存在
「本件金利スワップ契約の固定金利は,契約締結時に金融界で予想されていた金利水準の上昇に相応しない高利率であったばかりでなく,控訴人会社の信用リスクに特段の事情も認められないのに,本件訴訟で控訴人会社が例示した他の金利スワップ契約のそれよりもかなり高いもので,前記金利スワップ契約のスワップ対象の各金利同士の水準が価値的均衡を著しく欠くため,通常ではあり得ない極端な変動金利の上昇がない限り,変動金利リスクヘッジに対する実際上の効果が出ないものであったことは明らかである。したがって,本件金利スワップ契約は,被控訴人銀行に一方的に有利で,控訴人会社に事実上一方的に不利益をもたらすものあって,到底,その契約内容が社会経済上の観点において客観的に正当ないし合理性を有するものとは言えない」
3.不法行為の成立
「被控訴人銀行において,本件金利スワップ契約の締結に当たって,契約に付随する控訴人会社に対する説明が必要にして十分行われたときは,控訴人会社においては,目的とした変動金利リスクヘッジの可能性の不合理な低さ等から,本件金利スワップ契約は締結しなかったことは明らかで,その説明義務違反は重大であるため,本件金利スワップ契約は契約締結に際しての信義則に違反するものとして無効であり,その説明義務違反は,被控訴人銀行の不法行為を構成すると解せざるを得ない」
4.X会社側の責任事情
   「・・・控訴人会社の規模や被控訴人銀行から本件説明を受けた際には,わざわざ税理士に立会いをさせる等していたのであるから,そのシミュレーションを実行する能力があったし,その専門的用語の調査ないし理解も容易であったことは明らかである。・・・本件金利スワップ契約における多額の本件差額金の支払が現実に必要となった段階で,直ちに本件金利スワップ契約内容が極めて不合理なものであったと当然気付かなければならないのに,本件差額金の支払を重ねてその損害を拡大させたものである。・・・控訴人会社の社会経済的地位からすると,軽率な点があったことは否定できない」 
5.結論
   「本件銀行説明の程度や本件控訴人会社側の責任事情を斟酌すると,控訴人会社の本件における被控訴人銀行に請求できる損害金額としては,本件差額金として支払った合計金額の約4割及び提訴日までの遅延損害金を過失相殺として減じた後の残額である530万円及びそれに対する本訴提訴の日である平成18年7月20日から支払済みまで,控訴人会社主張にかかる範囲内の民法所定の年5分の遅延損害金の限度とするのが相当である」
■ コメント
本判決は,中小企業のデリバティブ取引に関して,銀行の説明義務違反を認めたもので,注目すべきものであり,他の同種事案にも参考となる。近時増加している金融ADRにおける事案にも影響を及ぼすものと思料する。
本件では,銀行の説明義務違反が認められているが,その判断には,本件金利スワップ契約の内容が社会経済的合理性を有さないことが,大きな影響を及ぼしているものと思われる。また,本件では,4割の過失相殺がなされているが,その過失(減額)事情としては,本件契約に関する専門的用語の調査等を懈怠したことや本件差額金の支払が現実に必要となった段階で直ちに当該契約内容が不合理であると気付いたにもかかわらず,同支払を重ねたこと等があげられている。
他の同種事案においても,銀行の説明内容のほか,当該契約内容の社会経済的合理性や当該中小企業の規模・調査能力及び事後対応等を十分検討する必要がある。
なお,本件については,上告・上告受理申立てがなされており,最高裁において,如何なる判断がなされるか,注視したい。
以上
弁護士法人
肥後橋法律事務所
 
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