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判例

判例チェック No.41 最高裁判所第三小法廷平成25年2月26日判決・平成23年(受)第1644号道路通行権確認等請求事件

カテゴリ:判例
判例チェックNo.41
最高裁判所第三小法廷平成25年2月26日判決・平成23年(受)第1644号道路通行権確認等請求事件
(出典  最高裁HP)

☆チェックポイント
 地役権設定登記を経由していない通行地役権者は、最先順位の抵当権設定当時において、継続的に要役地の所有者等によって通路として使用されていることがその位置等の物理的状況から客観的に明らかであり、抵当権者もそれを認識し或いは認識可能であったときは、承役地の担保不動産競売による買受人に対し、通行地役権を主張できるか(積極)
■裁判例の概要
(事案の概要)
 本件通路は、昭和55年ころ開設され、その承役地は4筆、その所有者は3筆がA会社、1筆はA社代表取締役Bであり、そのころ要役地の所有者の一人X1とA社との間で通行地役権設定契約が成立した。その後本件通路については、昭和55年以降平成19年までの間数回にわたり、X1を含む複数の要役地所有者と承役地所有者との間で通行権ないしは通行地役権設定の合意が締結された。一方、昭和56年に承役地のうち1筆につき、平成10年に4筆全部につき、それぞれ根抵当権設定がなされ、平成18年にこれらの根抵当権に基づく競売申立がなされた。
 そこで要役地の所有者又は賃借人(被上告人等)は、担保権実行による買受人(上告人)に対し、本件訴訟で、通行地役権又は土地通行権の確認等を求めた。
 原判決は請求を認める判断をしたが、最高裁は結論にいたる経緯に誤りがあり正しい法理論によってさらに審理を尽くすべきであるとして破棄差戻しをしたのが本件である。
(判旨の概要)
 登記のない通行地役権者は、最先順位の抵当権の設定時において,既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかであり,かつ,上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは,特段の事情がない限り,承役地の担保不動産競売による買受人に対し通行地役権を主張できる。
●コメント
 本判例がその理由として説示するところは、承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかである「場合,抵当権者は,抵当権の設定時において,抵当権の設定を受けた土地につき要役地の所有者が通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができる上に,要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無,内容を容易に調査することができる。これらのことに照らすと,上記の場合には,特段の事情がない限り,抵当権者が通行地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは信義に反するものであって,抵当権者は地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず,通行地役権者は,抵当権者に対して,登記なくして通行地役権を対抗することができると解するのが相当であり(最高裁平成9年(オ)第966号同10年2月13日第二小法廷判決・民集52巻1号65頁参照),担保不動産競売により承役地が売却されたとしても,通行地役権は消滅しない。」しかしながら、原判示の如く、承役地の担保不動産競売による売却時に本件通路が外形上通路として使用され、通行地役権者が本件通路を使用することを競売による買受人が認識し又は認識可能性が存在することを根拠に、通行地役権者の権利主張を認めることはできない、というにある。
 ここで先例として引用されている判例は、売主から要役地を買い受けるとともに同土地に通じる売主所有の土地を通行できる地役権の設定を受けた買主が、通行地役権設定登記を経由しなかったところ、売主は第三者に承役地を売却したので、買主である通行地役権者が承継地の買主である第三者に通行地役権を主張したものであり、最高裁は、第三者の承役地譲受時点の状況を基準として、当該通路が外形上通路として使用されていることが明らかであり、第三者(承役地の買主)が要役地の所有者または賃借人が当該通路を使用することを認識していたか又は容易に認識し得る状況にあったから、特段の事情がない限り、登記欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと判断している。なお本件の原判決は、この先例判決の趣旨をそのまま援用したのか、上告人が競落した時点の状況を基準として正当な利益を有する第三者に該当すると判断している。
 これらの判例と対比すると、本判例は、先例の事案が第三者の承役地買い受けの時点で承役地所有権と通行地役権との対抗問題が発生したからその時点での状況を基準として解決するべきであるのに、本判例の事案では、担保不動産競売による買受人の承役地所有権と通行地役権との対抗問題の発生原因が抵当権設定にあることに着目し、その対抗問題の解決は抵当権設定時点での状況を基準とするべきであるとの見地に立ち、その時点において、当該通路が外形上通路として使用されていることが明らかであり、抵当権者において要役地の所有者または賃借人が当該通路を使用することを認識していたか又は容易に認識し得る状況にあるときは、通行地役権者は、特段の事情がない限り、買受人に対し、権利の主張ができるとしたものである。
 しかしながら、最先順位の抵当権設定当時の物理的事情や抵当権者の主観的事情を基準としなければならないとすると、最先順位の抵当権設定から長期間を経て競売申立がなされた場合(本件事案では約25年が経過している。)通行地役権者の権利主張には立証上多くの困難が予想されそうである。
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