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判例

判例チェック No.45  広島地裁平成24年10月25日判決・損害賠償請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック№45 広島地裁平成24年10月25日判決・損害賠償請求事件
(判例体系)
 
チェックポイント
 親会社が子会社の事実上の取締役として責任を負うか否かにつき,本事案における結論としては否定したが,法理論的にはその可能性を否定していない。
事案の概要
A社から振出を受けていた手形が不渡りとなり,同手形債権額から弁済を受けた額を控除した残額1億円超の損害を受けたとするXが,A社の取締役や監査役であった者等のほか,A社の親会社であるY社に対し,会社法429条の類推適用等に基づき,損害賠償を請求した。
判旨
「Y社は,A社の65%の株式を有する親会社であり,連結子会社であるA社を含む企業集団の連結計算書類を作成する義務があり,その取締役会は,親会社及び子会社からなる企業集団における業務の適正を確保するための体制を決定しなければならないとされているし(会社法362条4項6号,5項,会社法施行規則100条1項5号),また・・・A社の取締役及び監査役の多くは,Y社の役員を兼務している。しかしながら,A社において,Y社が,実質的に業務執行を行ってA社を主宰していたという事実に関する主張はないことはもとより,本件の全証拠を総合しても,そのような事実関係をうかがわせるものはない。そして,上記のY社とA社との関係は,結局,通常の親子会社においてよく見られる関係でしかないのであるから,Y社がA社を主宰していたわけではない以上,Y社をA社の事実上の取締役と解することはできず,さらに,そのことを前提に会社法429条1項の責任を問うことはできないといわなければならない。したがって,XのY社に対する会社法429条1項の類推適用に基づく請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。」
★ コメント
従前より,株主総会で選任されておらず,また登記されていなくても,対外的にも対内的にも実質上経営者と認められる者については,「事実上の取締役」として責任を認めた裁判例が相当数存する。取締役の第三者に対する責任(会社法429条)は,法人格否認の法理に代わる機能を果たしてきたものであり,その機能を更に「事実上の取締役」まで拡大していると言える。
しかし,これまで親会社につき,事実上の取締役として責任を認めた裁判例は見当たらない。本裁判例も,結論として,親会社につき,事実上の取締役として責任を認めなかったが,その理由としては,Y社において,A社を含めた連結書類やA社の役員の兼任の事実はあるが,実質的にA社の業務執行を行ってA社を主宰していたという事実に関する主張はないなどとして否定しており,法理論的には,親会社が子会社の事実上の取締役として責任を負う可能性を否定していないことに留意すべきである。
ただし,現行法上,法人取締役が認められていないことに加え,そもそも支配株主であることから生じる義務と,事実上の取締役として生じる義務とは異なるのであって,事実上の取締役の要件として,対外的にも対内的にも実質上経営者と認められることを要求していることからすれば,親会社が子会社の裁量を奪うような極めて小規模な会社など,その適用範囲にはかなりの限界が存するものと思料する。
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