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判例

判例チェック No.46 東京地判平成17年11月29日

カテゴリ:判例
判例チェック №46 
東京地判平成17年11月29日(判例タイムズ1209号196頁)
 
★チェックポイント
 親会社は子会社が債務を弁済するための資金を提供する義務があるか(消極)。 
事案の概要
Y社の子会社であったA社が営業を廃止した後,親会社であるY社が,親会社責任を果たすべくA社に対し資金を提供して,A社が自己の債務を弁済していたにもかかわらず,A社と裁判で債権債務の存否について係争していたX社がA社に勝訴し,X社のA社に対する債権が裁判上確定するや,一転して,Y社において,A社に対し資金を提供することなく,A社に特別清算を申し立てさせ,A社のX社に対する債務を弁済させなかったのは,X社以外のA社の債権者に対し親会社責任を果たしてきたY社が信義則及び公平の原則に基づき子会社の債権者であるX社に対して負担する一種の保護義務に違反したものであって,X社に対する債権侵害の不法行為が成立するとして,X社が,Y社に対し,回収不能となった債権額である1億0888万5000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払を求めた。
Y社は,A社がB銀行から融資を受けるにあたり,B銀行に対し,「借入債務が支障なく履行されますようB社を監督」する旨及びA社の「経営及び財務につき健全な状態を保持すべく十分指導」する旨の念書(経営指導念書)を差し入れており,A社がB銀行に対して借入金を返済しないときは,B銀行がY社に対して経営指導念書に基づく義務の履行を求めてくるものと予想されたことから,A社に対し,同銀行からの借入金の返済資金を融資することにしていた。
判旨(請求棄却)
「親会社は,子会社の株主であって,法律上,子会社の債権者との関係では,株主として出資額を限度として有限責任(商法200条1項)を負担するのみであり,その他,子会社の債務につき,子会社の債権者に対し,直接弁済の責任を負わない。すなわち,親会社が,子会社の債権者に対して,直接の弁済であろうと,子会社に資金を提供して子会社が弁済するという,いわば間接的なものであろうと,いずれの意味においても,親会社であることに基づき,子会社の債務の弁済について債務若しくは責任を負うことはないというべきである。」
「X社は,上記の点を意識してか,自己の主張を,親会社であるY社に子会社であるA社のX社に対する債務の弁済の責任があるという主張ではないとするものの,Y社が子会社であるA社にX社の債務を弁済するための資金を提供しなかったことを捉えて,一種の保護義務違反であると主張するものである以上,実質的には,親会社に子会社の債務について責任があるとする主張と異ならず,原告の上記保護義務違反の主張は,採用することができない。」
「また,X社は,Y社が,A社をして同社の債務を弁済させる方針を決定し,それを実行に移した以上,A社の債権者は,A社に弁済能力がなくても自己の有する債権について全額の弁済が受けられると期待し,かつ,信頼を寄せるのが当然であると主張する。」
「しかしながら,親会社であるからといって,子会社の債権者に対し,子会社の債務の弁済について債務若しくは責任を負うことはない以上,子会社の債権者であるX社が,親会社のY社がA社に弁済資金を提供して自己の債権も弁済が受けられると信頼したとしても,そのような信頼は,子会社の債権者であるX社の一方的なものであって,法的保護に値する信頼とはいえないし,親会社の子会社の債権者に対する何らかの法的義務を導き出す根拠となるものともいえない。さらに,Y社は,X社のA社に対する本件手形金債権につき,平成12年6月20日の訴訟提起から平成15年11月19日に判決が確定するまでの間,一貫してその存在を争っていたから,X社が同債権につき全額の弁済が受けられると期待するという事実的基礎が存在したかどうかについても疑問があり,X社の上記主張は,いずれにしろ採用の限りではない。」
「結局,原告がその主張の前提とする事実関係,すなわち,被告において,訴外会社の営業廃止に伴い,訴外会社の債権者のうち,原告を除くB銀行等に対する債務につき,子会社である訴外会社に弁済資金を贈与し,訴外会社の原告に対する本件手形金支払債務の存在が裁判上確定されるや,被告の主導で訴外会社に特別清算を申し立てさせ,原告の訴外会社に対する本件手形金の回収を事実上不能ならしめたという事実関係を前提としても,被告において,原告に対する何らかの法的義務に違反し,故意に基づき原告の本件手形金債権の給付を侵害したということはできない。」
「以上によれば,原告の本訴における被告の親会社責任を前提とした一種の保護義務に基づく債権侵害の主張は,それ自体失当といわざるを得ない。」
コメント
X社との関係では,Y社の経営指導念書も存せず,特に,直接,Y社がX社に対し監督等の義務を負担したと認められる事情も主張されていないことから,不法行為責任は否定されているが,Y社との間で,経営指導念書等の授受があり,その他,具体的に監督等の義務を負担したことを窺わせる事情が主張された場合には,Y社のX銀行に対するA社の監督等義務違反として,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任が認められた可能性も存すると考える。
経営指導念書の関係では,X社以外の債権者との関係で,経営指導念書を取っていたB銀行等には実質的に親会社(支配会社)であるY社が返済資金を捻出しており,注目すべき事案である。
なお,経営指導念書については,保証合意であるか否かという単純な争点に絞り込むことは適当ではなく,むしろ,支配会社と従属会社との支配従属関係を前提として,当該念書等の内容及び当該念書を締結するに至った経緯等を総合的に考慮し,支配会社が,従属会社債権者を誤信させて従属会社との取引関係に引き込んだと言えるような場合等の事案においては,従属会社債権者が支配会社に対し債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求ができるものと解するべきである。
以上
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肥後橋法律事務所
 
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