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判例

判例チェック No.48 大阪地裁平成8年8月28日判決・損害賠償請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック№48 大阪地裁平成8年8月28日判決・損害賠償請求事件
(判例時報1601号130頁)
 
チェックポイント
 支配法人の役員について,従属法人の役員を指導監督すべき義務を認めたうえで,支配法人の従属法人債権者に対する民法44条1項等の責任を肯定した。
事案の概要
Y組合(私大の生活協同組合)の理事Y1が,Y組合が設立したA社の取締役を兼任していたところ,A社が破産したことから,A社債権者Xらが,A社の取締役を兼任していたY組合の理事には,他の取締役を指導監督する義務があったなどとして,回収不能に係る損害につき,Y組合に対し,賠償を請求した。
判旨(一部認容)
「(A社取締役らに対する)監督義務を怠り,同取締役らの放漫経営を放置した(Y1らY組合の専務理事を兼任していたA社の取締役)の所為がA社の取締役としての忠実義務に違反する・・・さらに,同所為は,Y組合の専務理事というY組合の立場に照らして見た場合には,Xらに対する違法な権利侵害として,不法行為を構成するものというべきである。」
「〈1〉A社は,Y組合の経営戦略の一環として設立された会社であり,その資本及び役員の構成からして,Y組合の完全子会社であって,あたかもY組合の一部門ともいうべき地位にあったということができること,〈2〉そして,Y1は,Y組合内に設置された業態研究会及び企画調査室のメンバーに理事(当時は常務理事)の立場から参加するなど,A社の設立に当初から主導的に参画し,その設立に当たっては,取締役に就任したが,その任務は,Y組合の理事の立場からA社の経営を支援するとともに,(A社の)常勤役員・・・を指導監督するということであったものと認められること,〈3〉現に,Y1は,Y組合の専務理事に就任して間もない昭和61年8月末頃,業者説明会の席上,A社がY組合の完全子会社であって,Y組合としては可能な限り支援して行く方針であることを対外的に表明するとともに,A社から毎月月次決算書を提出させるなどして,その経営内容を掌握していたこと,以上の事実を指摘することができるのであって,これらの事実を併せ考えると,Y1は,Y組合の専務理事として,A社の経営が健全に行われるように部下である・・・(A社取締役ら)を指導監督すべき注意義務を負っていたものということができるのであり,しかも,この義務は,Y組合に対してのみならず,Y組合と取引関係に立つXら納入業者に対する関係でもこれを肯認することができるというべきである。」
「そうすると,Y1の前記所為は,Y組合の職務遂行上におけるXらに対する不法行為に該当するということができるから,Y組合は,生協法42条,民法44条1項に基づき,Xらが被った・・・損害を賠償する義務がある。」
★ コメント
本件は,従属法人の取引債権者が支配法人に対し損害賠償請求をした事案であり,支配法人の役員が従属法人の役員を兼務している場合,支配法人の役員として,従属法人の経営が健全に行行われるように,従属法人の役員らを指導監督すべき注意義務を負っていたとして,不法行為責任を認め,その結果,支配法人に対しても民法44条1項等の責任を認めた。
本件については,不法行為法上,支配法人の取締役に対し,従属法人の取締役を指導監督すべき注意義務を認めたことに注目すべきであるほか,民法44条1項等により,支配法人自身の責任も認めたところに意義がある。
なお,本件において,「事実上の取締役の理論」に基づく責任を認めることも考えられるが,支配法人自身を事実上の取締役と認めるのであれば格別,支配法人の取締役を従属法人の事実上の取締役と認めたとしても,民法44条1項等や会社法350条により責任を負うのは従属法人になるに過ぎないものと思われる。
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