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判例

判例チェック No49 東京高裁平成23年1月26日判決・会社分割無効請求控訴事件

カテゴリ:判例
判例チェック№49 東京高裁平成23年1月26日判決・会社分割無効請求控訴事件
(金融・商事判例1363号30頁)
 
チェックポイント
  新設分割について異議を述べることができない債権者は会社分割の無効の訴えの原告適格を有さない。
事案の概要
Y1は,X銀行に約1億円の債務を有するなど,債務超過の状況であったにもかかわらず,Y2を新設分割会社として,新設分割(以下「本件会社分割」という。)を行った。本件会社分割にあたり,Xに対する債務については,新設会社であるY2には承継させなかった。
Xは,本件会社分割につき,Y1がXに対して負っている債務の履行の見込みがないことを理由に無効であるとして,分割無効の訴えを提起した。
判旨(一部認容)
「新設分割の無効は,訴えをもってのみ主張することができ,その出訴期間が定められている(会社法828条1項10号)。また,無効の訴えを提起することができる者を同条2項10号に規定する者に限定している。これは,新設分割による権利義務の承継関係の早期確定と安定の要請を考慮しているためである。
そして,債権者については,「新設分割について承認をしなかった債権者」に限定している(同号参照)。「新設分割について承認をしなかった債権者」とは,新設分割の手続上,新設分割について承認するかどうか述べることができる債権者,すなわち,新設分割に異議を述べることができる債権者(同法810条1項2号)と解するのが相当である。この反面,新設分割に異議を述べることができない債権者は,新設分割について承認するかどうか述べる立場にないから,新設分割無効の訴えを提起することができないことになる。」
「これに対し,控訴人(X銀行)は,新設分割会社が債務超過で,会社分割後も新設分割会社のみが債務を負い,新設分割設立会社が債務を承継しない場合は,このような会社分割に同意しない債権者も,「新設分割について承認をしなかった債権者」(会社法828条2項10号)に該当する者として新設分割無効の訴えを提起できるとすベきである旨主張する。しかしながら,新設分割においては,新設分割会社がその事業に関する権利義務の全部又は一部を新設分割設立会社に交付することに対し,新設分割設立会社の設立の際に発行される株式(新設分割会社が新設分割設立会社に交付する純資産の価値に相当する。)が新設分割会社に割り当てられ(同法763条6号),新設分割会社は,新設分割設立会社の株主となる(同法764条4項)から,新設分割会社は,資産総額に変動がないことになる。そうすると,新設分割後,新設分割会社に対して債務の履行を請求することができる債権者は,債務者に変更がないから,新設分割について異議を述べることができる債権者から除外したのである。これに対し,新設分割後,新設分割会社に対して債務の履行を請求することができない新設分割設立会社の債権者は,債務者が変更になることから,新設分割について異議を述べることができることにしたのである。ところで,以上のように解したとしても,新設分割会社が新設分割設立会社から割り当てられる株式が新設分割会社が新設分割設立会社に交付した純資産に相当するものでなかった場合,新設分割会社の債権者は,不利益を受けるおそれがある。しかし,この場合でも,新設分割無効の訴え以外の方法で個別に救済を受ける余地があるから,不当な事態は生じない。したがって,会社の新設分割無効の訴えを提起することができる債権者を拡張して解釈する必要はなく,控訴人(X銀行)の上記主張は採用することができない。」
「そして,本件会社分割によって,控訴人(X銀行)は,新設分割会社である被控訴人Y1の債権者であることに変わりはないから,会社の新設分割無効の訴えについて,原告適格を有しないといわざるを得ない。」
★ コメント
本裁判例は,「債務の履行の見込みがないこと」が会社分割の無効事由となるか否かの争点については判断しなかったが,新設分割後も新設分割設立会社に対して債務の履行を請求することができる債権者については,会社分割無効の訴えの原告適格を認めない以上,仮に「債務の履行の見込みがないこと」が会社分割の無効事由となると解したとしても,会社分割無効の訴えを提起することはできない。
ただし,本裁判例は,濫用的会社分割の実情を踏まえ,新設分割後も新設分割設立会社に対して債務の履行を請求することができる債権者に対する保護については,会社分割無効の訴え以外の方法で個別に救済を受ける余地がある旨指摘した。個別の救済方法としては,詐害行為取消権,法人格否認の法理,会社法22条1項類推適用等が考えられるが,近々成立が見込まれている「会社法改正」により,承継会社に対する直接請求権が規定されることになった。なお,「会社法改正」の概要については,別途検討したい。
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