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判例

判例チェック No.53 大阪地裁平成25年9月6日決定・工作物設置続行禁止仮処分申立事件

カテゴリ:改正会社法
判例チェックNo.53
大阪地裁平成25年9月6日決定・工作物設置続行禁止仮処分申立事件(裁判所HP)

★チェックポイント
1 庭園の著作物性
2 本件工作物の設置による同一性保持権侵害の成否
(1)著作物に物理的変更を加えない場合の「改変」(著作権法20条1項)の認定
(2)建築物の改変の規定(著作権法20条2項2号)を(類推)適用する場合の要件論
■事案の概要
 庭園の設計等を業とする造園家X(債権者)が,複合施設「新梅田シティ」内の庭園を設計した著作者であると主張して,同庭園内に「希望の壁」と称する工作物(計画によると,高さ9.35m,長さ78m,幅約3m(プランター等を含む)のコンクリート基礎を有する鋼製構造物)を設置しようとするY(債務者)に対し,著作者人格権(同一性保持権)に基づき,その設置工事の続行禁止を求める仮の地位を定める仮処分を申し立てた。
■決定要旨(申立て却下)
 1 本件庭園の著作物性
 「本件庭園は,新梅田シティ全体を一つの都市ととらえ,野生の自然の積極的な再現,あるいは水の循環といった施設全体の環境面の構想(コンセプト)を設定した上で,上記構想を,……具体的施設の配置とそのデザインにより現実化したものであって,設計者の思想,感情が表現されたものといえるから,その著作物性を認めるのが相当であ」り,「仮に……個々の構成要素はありふれたものであったとしても,前記構想に基づき,超高層ビルと一体となる形で複合商業施設の一角に自然を再現した本件庭園は,全体としては創造性に富んでいる」。
 2 本件工作物の設置が「改変」(著作権法20条1項)に該当するか
 「本件工作物の設置態様は,カナル及び花渦に直接物理的な変更を加えるものではないが,本件工作物が設置されることにより,……本件庭園の基本構想は,本件工作物の設置場所付近では感得しにくい状態となる。また,本件工作物は……巨大な構造物であり,これを設置することによって,カナル,花渦付近を利用する者のみならず,新里山付近を利用する者にとっても,本件庭園の景観,印象,美的感覚等に相当の変化が生じる」とし,本件工作物の設置が本件庭園に対する改変に該当すると述べた。
 3 建築物の改変の規定(著作権法20条2項2号)の適用ないし類推適用の可否
 「本件庭園は,……実際に利用するものとしての側面が強」く,「本件庭園が著作物であることを理由に,その所有者が,将来にわたって,本件土地を本件庭園以外の用途に使用することができないとすれば,土地所有権は重大な制約を受けることになるし,本件庭園は,複合商業施設である新梅田シティの一部をなすものとして,……老朽化,市場の動向,経済情勢等の変化に応じ,その改修等を行うことは当然予定されているというべきであり,この場合に本件庭園を改変することができないとすれば,本件土地所有権の行使,あるいは新梅田シティの事業の遂行に対する重大な制約となる」とし,本件庭園の著作者の権利と本件土地の所有者の権利の調整につき,「土地の定着物であるという面,また著作物性が認められる場合があると同時に実用目的での利用が予定される面があるという点で,問題の所在は,建築物における著作者の権利と建築物所有者の利用権を調整する場合に類似する」ので,著作権法20条2項2号が類推適用できると述べたうえ,「本件工作物の設置は,本件庭園の既存施設……を物理的に改変せずに行うものであ」り,「模様替え」に相当するとした。
同号の適用は,経済的,実用的な観点から必要な範囲の増改築であり,かつ,個人的な嗜好に基づく恣意的な改変ではない場合に限られるとのX主張に関しては,「同号の文言上,そのような要件を課して」おらず,上記の場合に限定することは,「建築物所有者の権利に不合理な制約を加えるものであり,相当ではない」として排斥した。
 4 特段の事情の有無
 「建築物の所有者は建築物の増改築等をすることができるとしても,一切の改変が無留保に許容されていると解するのは相当でなく,その改変が著作者との関係で信義に反すると認められる特段の事情がある場合はこの限りではないと解する余地がある」としたうえで,本件に特段の事情があるとまではいえないと述べた。
★コメント
 本決定は,本件庭園につき,著作物の種類を明示せずに著作物性を肯定した。庭園等の移築に関する東京地決平成15年6月11日判時1840号106頁(ノグチ・ルーム事件)は,庭園を建物と有機的に一体となった1個の建築の著作物とした。建築の著作物に該当する場合,本件で問題となった著作権法20条2項2号のほか,46条等の適用を受けることができる。しかし,本決定のように,著作物の種類に関係なく庭園に建築関連規定が適用または類推適用されると考えれば,著作権の種類の特定にさほど実益はないと思われる。著作物性の判断に関しては,本件庭園の「構想(コンセプト)」を媒介にして,個々の施設を含む一つの空間を1個の著作物と捉えている点も特徴的である。
 そして,本決定は,本件工作物の設置が「模様替え」に該当し,20条2項2号の類推適用を受けるので,Yによる同一性保持権侵害は成立しないと述べた。この際,同号の適用は実用目的に基づく改変に限られる旨のX主張(上記ノグチ・ルーム事件決定が傍論ながら採用した要件論と同旨)を明示的に排斥しているが,本件の改変に実用目的は十分認められるため,あえて条文にない要件を付加することを避けたものであろう。
 もっとも,その上で,改変が信義に反する「特段の事情」という別の要件に言及したのは,Yによる一定の改変を受忍するともとれる趣旨のX発言等,Xに不利な事情(Xの同意を認定するには足りない事情)をどこかで考慮したかったからではないかと推測される。
 本案訴訟の結果も注目される。
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