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判例

判例チェックNo.54 最高裁第一小法廷親子関係不存在確認に関する2つの最高裁判決

カテゴリ:判例
判例チェック №54
第1事件 最高裁第1小法廷平成26年7月17日判決・平成24年(受)第1402号 親子関係不存在確認請求事件
第2事件 最高裁第1小法廷同年同月同日判決・平成25年(受)第233号 親子関係不存在確認請求事件
 
☆チェックポイント
戸籍上の父との間では生物学上親子関係がないが、判示の事情にある嫡出子は、戸籍上の父に対し、親子関係不存在確認訴訟を提起できるか(消極)
■事案の概要
いずれの事件についても、上告人Y(戸籍上の父)、被上告人X(嫡出子)、甲(実母)、乙(実父)である。
第1事件
平成11年 Yと甲、婚姻届出
平成20年頃から甲乙交際開始、肉体関係を生じた。しかし、Y甲は同居継続、夫婦の実体維持
平成21年 甲、乙の子(X)を妊娠したことを知ったが、乙の子と思っていたので、Yには妊娠及び出産のための入院を秘匿し、Xを出産。Yは入院中の甲を探し出し、誰の子か尋ねたところ、甲は、「2,3回しかあったことのない男」などと答えた。
Yは、XをYと甲間の長女として出生届出をし、その後はXを自らの子として監護養育した。
平成22年 Yと甲は、Xの親権者を甲と定めて協議離婚。現在甲、Xは乙と共に生活している。
平成23年6月 甲はXの法定代理人として、Yに対し、親子関係不存在確認訴訟(本訴)を提起した。
X側の私的なDNA鑑定によれば、乙がXの生物学上の父である確率は、99.999998パーセントとされている。
第2事件
平成16年 Yと甲、婚姻届出
平成19年 Yは、単身赴任開始、その間も甲居住の自宅に月に2,3回程度帰宅。
平成19年 甲は、乙と知り合い、親密に交際するようになる。しかし、甲は、その頃もYと共に旅行するなど、両者間には夫婦の実態が失われることはなかった。
平成20年 甲はYに妊娠を報告。
平成21年 甲、Xを出産。Yは、Xの保育園行事に参加するなど、その監護養育をしていた。
平成23年 Yは甲と乙との交際を知った。甲は、Xを連れて自宅を出てYとの別居を開始、その後Xと共に、乙及びその前妻との間の子2人と同居。Xは乙を「お父さん」と呼んで、順調に成長している。
平成23年 Y側で行ったDNA鑑定によれば、乙がXの生物学上の父である確率は99.99パーセントとされている。
平成23年12月 甲はXの法定代理人として、Yに対し、親子関係不存在確認訴訟(本訴)を提起した。
平成24年 甲はYに対し、離婚調停申立、翌月不成立となり、翌月離婚訴訟提起
■判示事項
第1事件
夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的根拠により明らかであり、かつ、夫と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、民法772条による嫡出の推定が及ばなくなるとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。
第2事件
第2事件の判示事項は、第1事件のアンダーライン部を、「子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長している」と変更しただけで、その他は同一である。
●コメント
従来、嫡出子関係を争うには、嫡出否認訴訟が原則であるが、夫の受刑中など夫婦間で性的交渉がなかったことが外観上明らかな場合には親子関係不存在確認訴訟で争うことができるとされていた。このような状況下でDNA検査結果はどのように扱われるかについての初めての最高裁判決である。
本判決は、いずれも親子関係不存在確認請求の訴えの適法性を認めなかったが、その理由は、要するに、(1)親子関係不存在確認訴訟ができないとすれば生物学上の父子関係と法律上の父子関係の不一致を生じるが、民法774条から778条までの規定(嫡出推定の否認に制限を加えている。)は、民法がこのような不一致を容認しているものと解される、(2)夫婦間で性的関係を持つ機会がなかったことが明らかなどの事情が存在する場合嫡出推定を受けず、父子関係不存在確認訴訟が許される(最高裁昭和44年5月29日第1小法廷判決・民集23巻6号1064頁。平成10年8月31日第2小法廷判決・判例時報1655号128頁、平成12年3月14日第3小法廷判決・判例時報1708号106頁)が、本件ではこのような事情は認められないというものである。
なお、桜井龍子、山浦善樹両判事の補足意見、金築誠志、白木勇両判事の反対意見がある。
櫻井判事補足意見要旨:父子関係をほぼ完全に判別するDNA検査の下にあっても、嫡出推定に関する規定は法律上の父子関係を速やかに確定し、家庭内の事情を公にしない利益があり、父子関係の早期確定による子の利益に一定の意義がある。もっとも、子の出自を知り、生物学上の父との法律上の関係設定を求める希望を否定することには疑問があるが、生物学上の父子関係のみを重視することは民法772条の文理からの乖離、再婚禁止期間、父を定める訴え等の制度との調整の問題を生じ解釈論の限界を超えるから、国民意識、子の福祉その他諸般の事情を踏まえて立法で解決するべきであると要約できるであろう。
金築判事反対意見要旨:多数意見に従うならば、子は実父と同居していても実父との間に法律上の実父子関係を形成できないが、それが自然で安定した状態といえるだろうか,本件事例では、法律上の父が子の養育監護に実質的に関与することは事実上困難であろう、子が実父を相続することも困難となる虞もある、実父との養子縁組は子に精神的悪影響を与えるだろう、子の実父に対する認知請求権を奪う結果になることを軽視できない、本件のように、夫婦関係が破綻して子の出生の秘密があらわになっており、かつ、法律上の父子関係解消後直ちに生物学上の父との間で法律上の親子関係を確保できる状況にあるときは、法律上の父に対する親子関係不存在確認訴訟が許されるべきである。
 櫻井判事補足意見、金築判事反対意見とも詳細に亘り、その重要点だけでも以上要旨に尽きるものではなく、山浦判事補足意見、白木判事反対意見も重要かつ詳細で説得力があるが、紙数の関係で省略する。なお金築判事は反対意見中で福田裁判官の意見に触れておられるが、同意見は判例時報1655号128頁に搭載されている。
本件の同種事例については、いずれ大法廷判決でもって統一的な見解が示されることが期待される。
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