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判例

判例チェック No.55 最高裁平成25年6月6日判決・未収金請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック№55 最高裁平成25年6月6日判決・未収金請求事件
(判例時報2190号22頁)
 
チェックポイント
明示的一部請求の訴えの提起における,その残部にかかる裁判上の催告としての消滅時効の中断(積極)
事案の概要
Xは,平成10年9月3日に死亡した亡Aの遺言により,その遺言執行者に就職した者である。本件未収金債権は,商行為によって生じた債権であり,その消滅時効期間は5年である。
Yは,平成12年6月24日,Xに対し,本件未収金債権につき,残高証明書を発行し,その債務を承認した。
Xは,平成17年4月16日到達の内容証明郵便で,Yに対し,本件未収金債権の支払の催告(以下「本件催告」という。)をした。
Xは,平成17年10月14日,大阪地方裁判所に対し,Yを被告として,本件未収金債権のうち一部の支払を求める訴え(以下「別件訴え」という。)を提起した。Xは,別件訴えに係る訴訟において,本件未収金債権の総額のうちの一部を請求すると主張した。これに対し,Yは,本件未収金債権の上記総額には,相殺処理によって既に消滅した分が含まれていると主張した(以下,この主張を「別件抗弁」という。)。
大阪高等裁判所は,平成21年4月24日,別件抗弁に理由があると判断した上,現存する本件未収金債権の額を認定して,Xの請求を全部認容する旨の判決(以下「別件判決」という。)を言い渡し,別件判決は同年9月18日に確定した。
Xは,平成21年6月30日,本件訴えを提起し,別件判決の認定に沿って,現存する本件未収金債権の額を示したうえで,別件訴えに係る訴訟で請求していなかった残部(以下「本件残部」という。)の額を主張して,その支払を請求した。これに対し,Yは,本件残部については,本件催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。
原審は,本件残部について,その額を認定したものの,消滅時効が完成していると判断して,Xの請求を棄却した。
判旨(上告棄却)
「明示的一部請求の訴えにおいて請求された部分と請求されていない残部とは,請求原因事実を基本的に同じくすること,明示的一部請求の訴えを提起する債権者としては,将来にわたって残部をおよそ請求しないという意思の下に請求を一部にとどめているわけではないのが通常であると解されることに鑑みると,明示的一部請求の訴えに係る訴訟の係属中は,原則として,残部についても権利行使の意思が継続的に表示されているものとみることができる。したがって,明示的一部請求の訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。」
「もっとも,催告は,6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなければ,時効の中断の効力を生じないのであって,催告から6箇月以内に再び催告をしたにすぎない場合にも時効の完成が阻止されることとなれば,催告が繰り返された場合にはいつまでも時効が完成しないことになりかねず,時効期間が定められた趣旨に反し,相当ではない。したがって,消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をしても,第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告から6箇月を経過することにより,消滅時効が完成するというべきである。この理は,第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異なるものではない。」
「これを本件についてみると,上告人は,本件催告から6箇月以内に,別件訴えを提起したにすぎず,本件残部について民法153条所定の措置を講じなかったのであるから,本件残部について消滅時効が完成していることは明らかである。」
コメント
  本判例は,従前の判例どおり,明示的一部請求において債権総額の判断がされた場合,残部について,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断を生ずるものではない(最高裁昭和31年(オ)第388号同34年2月20日第二小法廷判決・民集13巻2号209頁参照),としたうえで,上記のとおり,明示的一部請求の訴えの提起における,残部にかかる裁判上の催告としての消滅時効の中断を認めたものである。ただし,本事案の結論としては,本件催告(第1回の催告)後に別件訴えが提起(第2の催告)されているのに過ぎず,二重の催告は認められないため,本件残部については消滅時効が完成しているとした。
  今後の実務においては,催告による猶予期間に訴訟を提起する場合,明示的一部請求では残部の消滅時効の完成を阻止することはできず,全部請求をしなければならないことに留意すべきである。
 以上
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