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判例

判例チェック No.4 大阪高裁平成20年4月25日判決・地位確認等請求控訴事件

カテゴリ:判例
判例チェックNo.4 
大阪高裁平成20年4月25日判決・地位確認等請求控訴事件
 
(判例時報2010号141頁)
★チェックポイント
いわゆる偽装請負の事例。委託会社・受託会社間の業務委託契約及び受託会社・労働者間の雇用契約の双方を公序良俗に反し無効とした上で,当該労働者の就業の実態に鑑み委託会社・労働者間に黙示の労働契約の成立が認められた事例。
■裁判例の概要
(事案の概要)
 X(一審原告)は,A社との間で,契約期間を2ヶ月,更新あり,就業場所をY社(一審被告)の工場(以下「本件工場」という。)内として雇用契約を締結し,1年6ヶ月間,本件工場内での作業に従事した。
 Xは,A社との雇用期間中,本件工場以外の場所で就業したことがなく,Y社従業員,A社従業員等が混在して作業を行っているなかで,Y社の従業員の直接の指示に従って作業を行っており,休日出勤の指示をY社従業員からされることもあった。
 Y社とA社は製品の業務請負基本契約書及び業務委託個別契約書を作成し,生産1台あたりの業務委託料を設定して,Y社がA社にこれを支払い,同契約書上,A社がY社から設備,機械,器具等の貸与設備を借り受け,請負業務実施に伴う事務所として本件工場の一部建物を賃借して各賃借料を支払う旨を規定しているが,設備の借り受け状況や業務委託料の支払状況は明らかではない。
 XがA社から退職した後,Y社はXに対し,雇用期間を約5ヶ月とし(2ヶ月間の契約更新の可能性あり)直接雇用を申し入れたところ,Xは雇用期間や業務内容等につき異議を留めて申し入れを受け入れた。Y社は,同雇用期間の終了を持って雇用契約終了とした。
 その後,XはY社に対し,?Y社との間で締結した雇用契約が期間の定めのない契約であり,解雇は無効であると主張し,雇用契約上の権利を有することの確認,?Y社が雇用契約を終了とした後の賃金の支払い等を求めて訴訟を提起した。
(判旨)
(1)Y社・A社間,X・A社間の契約(以下,両契約を併せて「本件2契約」という。)の無効
   Xの本件工場内での労働状況に鑑みれば,Y社・A社との間の契約は,労働者供給契約であり,A社・Xの間の契約はその目的の達成のために契約である。本件2契約は,そもそも労働者派遣法に適合した労働者派遣たり得ないものであり,脱法的な労働者供給契約として,職業安定法44条及労働基準法6条(中間搾取の禁止)に違反し,強度の違法性を有するので,公序良俗に反し,契約当初から無効である。
(2)黙示の雇用契約の成立
   X・Y社間には事実上の使用従属関係があり,XがA社から給与等として受領する金員はY社がA社に業務委託料として支払った金員からA社の利益を控除した額を基礎とするものであって,Y社がXが給与等の名目で受領する金員を実質的に決定する立場にあったといえ,Xの採用,失職,就業条件の決定,賃金支払等を実質的に行い,Xがこれに対応して労務提供していたということができ,黙示の労働契約の成立が認められる。同労働契約の内容は,期間2ヶ月,更新あり,賃金時給等について,X・A社間の契約における労働条件と同様と認めるのが相当である。
(3)解雇・雇い止めの解雇権の乱用
   Y社が行った解雇通知は,解雇の意思表示に当たるが,XがA社との雇用契約期間中に行っていた業務作業が終了したなどの事情は見当たらないので,同解雇の意思表示は無効。同解雇の意思表示を雇い止めの意思表示だとしても解雇権の濫用にあたり許されない。
●コメント
  原審では,偽装請負の疑いが極めて強いと指摘しつつ,?雇用関係の本質は,労働を提供し,その対価として賃金を得る関係にあるが,XとY社との間には,指揮命令関係があるといっても,その間に,賃金の支払関係がなく,雇用関係があるとはいえない,?X・Y社が雇用契約を締結した際に,Xが期間の定めについて異議をとどめた上で契約を締結したからといって,Y社において,期間の定めのない契約を締結するつもりが全くなかったにも関わらず,同雇用契約が期間の定めのない契約として締結されることはない,また,同雇用契約締結以前の違法状態の存在を動機としてY社がXと同雇用契約を締結したとしても,その違法な状態自体は,Y社がXに対し直接雇用契約の申込をすることにより一応解消したというべきであり,期間の定めが公序良俗に反して無効であるとはいえない。?X・Y社間の雇用契約については,一度も更新されることなく雇い止めとなったものであり,Y社がXに対し,雇用関係が継続あれると期待されるような行為をとったとはいえず,Xもそのような期待を有していたとはいえないから,解雇権濫用,信義則違反等として雇い止めが許されない場合であるとはいえない等と,判断していた。一審と控訴審では,真逆の結論が出されている。
本控訴審判決を受けてY社は上告しており,上告審の判断が注目される。
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