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判例

判例チェック No.57 京都地裁平成4年2月5日判決・損害賠償請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック№57 京都地裁平成4年2月5日判決・損害賠償請求事件
(判例時報1436号115頁)
 
チェックポイント
いわゆる「事実上の取締役」として,従属会社の代表取締役の任務懈怠行為に対する「監視義務」を怠ったとして,取締役の第三者に対する責任を認めた。
事案の概要
Xは,A社に対し,呉服類を販売し,A社から代金の支払のために,約束手形の振出を受けたが,A社が倒産したことから,A社の代表取締役Cだけでなく,A社の監査役であるYに対し,業務財産を調査する義務があり,A社の親会社であるB社の代表取締役としても,A社の代表取締役の業務の監視義務があり,これに違反したとして,損害賠償を請求した。
なお,A社は,その株式全部をB社が有しており,B社の完全子会社である。
判旨
(監査役としての責任)      
「資本金1億円以下の株式会社の監査役は,・・・専ら会社の会計監査を行う権限と義務を有するに過ぎない(同法22条)。・・・A社に対する任務懈怠は,A社の代表取締役であるCの業務執行に関する事柄であるから,監査役であるYにおいて,これを監査する権限も任務もないというべきである。」
(事実上の取締役の責任)
「Yの言動とA社の経営状況の浮沈との間には密接な対応関係がみられるのであって,Yは,A社の経営と相当深い関係をもっており,親会社であるB社の代表取締役として,また,会社創設者であるDの相続人で,A社の実質的所有者として,事実上A社の業務執行を継続的に行ない,A社を支配していたものであって,A社の事実上の取締役に当たるというべき・・・」「Yは,A社の事実上の取締役であり,A社は,親会社たるB社及びYの資産と信用を頼りに,銀行から資金を借り入れ営業を存続させていたものである。」「A社は,Xとの本件取引開始直前の昭和62年度決算期(同年末)には累積赤字が2億0,100万円に達しており,主要取引銀行である住友銀行の意向に従って,同銀行に対する借入金弁済のために,同年12月,B社の店舗を,売却して漸く資金繰りをつけたもので,相当な経営困難に陥っていた。」「その後,A社は,昭和63年1月新社屋に移転したものの,親会社の資金援助とか,他からの借入金などを当てにしたものであって,確実な代金支払いの目処もないのに,その支払いのため満期を6か月先とする約束手形を振り出し,Xから本件格安商品を買い受けて,成算の持てない極めて利益の薄い安売りを続け,同年4月以降は返品の続発もあってXからの仕入れた本件商品を原価割れのダンピングをするなどして急場を凌いでいたものである。」「Y自身も,この頃,A社の経営不振について危機感をもち,帳簿類を調査したこともあるのに,単に利益の薄い取引であることを指摘して,注意を喚起したにすぎず,その後,自ら,取引銀行のE銀行やFに対して,取引打切りの申し出をしている。」「A社は,・・・急激に取引金額を増加させている。」「Xとの取引による商品の代金は当初から一切支払われていない。」「以上の各事実,弁論の全趣旨に照らすと,Yは,A社の事実上の取締役として,重大な過失によりC・・・の任務懈怠行為に対する監視義務を怠ったものというべきであって,Yはこれにより生じたXの損害を事実上の取締役の第三者に対する責任として商法266条ノ3第1項により賠償すべき責任がある。」
★ コメント
本件は,事実上の取締役について監視義務違反を理由に損害賠償責任を認めたことに特徴を有するが,このような判断に対しては,本来取締役としての地位のない者に監視義務違反を認めるにはやはり無理があるのではないか,などの批判がなされているところである(近藤光男「いわゆる『事実上の役員等』?最近の裁判例の検討から」石川正先生古稀記念『経済社会と法の役割』763頁以下(商事法務,2013)等)。
ところで,今回の会社法改正においては,改正会社法チェック№3にて概説したとおり,監査等委員である取締役とそれ以外に取締役が存在する,監査等委員会設置会社が創設されることになっている。このような会社において,今後,「事実上の取締役」理論は,如何に適用されるのであろうか。あくまでも監査等委員以外の取締役に限るのか,それとも,事実上,監査等委員である取締役と言えれば,「事実上の取締役」理論によって責任を認め得るのであろうか。仮に後者だとすれば,「事実上の取締役」理論は変容することになろう。
 以上
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