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判例

判例チェック No.59 最高裁判所第二小法廷平成26年12月19日判決・平成25年(受)第1833号賠償金請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック №59
最高裁判所第二小法廷平成26年12月19日判決・平成25年(受)第1833号賠償金請求事件
(出典 最高裁ホームページ)
 
★チェックポイント
共同企業体を請負人とする請負契約で、請負人「乙」に対する公正取引委員会の排除措置命令又は課徴金納付命令が確定した場合「乙」は注文者「甲」に約定の賠償金を支払うとの約款があるところ、共同企業体の構成員の一部につき独禁法違反の排除措置命令が確定した場合、他の構成員は所定の賠償金を支払うべき債務があるか。(消極)
■判旨
本件賠償金条項において排除措置命令等が確定したことを要する「乙」とは,本件においては,本件共同企業体又は「A建設及び上告人」をいうものとする点で合意が成立していると解するのが相当である
■事案の概要
(1) 被上告人は,平成20年2月,川崎市 a 地区ほかの下水管きょ工事(以下「本件工事」という。)を一般競争入札に付した。
A建設株式会社と上告人は,同月,本件工事の請負を目的としてA・Y共同企業体(以下「本件共同企業体」という。)を結成した。そして,本件共同企業体は,上記入札に応じて落札し,同年3月,被上告人との間で,本件工事の請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(2) 本件契約の契約書では,注文者である被上告人は「甲」,請負人である本件共同企業体は「乙」と表記されていた。そして,同契約書に添付されていた川崎市工事請負契約約款(以下「本件約款」という。)には,次のような条項があった。
ア 乙が共同企業体である場合には,その構成員は共同連帯してこの契約を履行しなければならない(以下,この条項を「本件連帯条項」という。)。
イ 乙が本件契約の当事者となる目的でした行為に関し,公正取引委員会が,乙に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)の規定に違反する行為があったとして排除措置命令又は課徴金納付命令(以下,併せて「排除措置命令等」という。)を行い,これが確定した場合,乙は,甲に対し,不正行為に対する賠償金として,請負金額の10分の2相当額を甲の指定する期限までに支払わなければならない(以下,この条項を「本件賠償金条項」という。)。
乙が上記賠償金を上記期限までに支払わなかったときは,乙は,甲に対し,年8.25%の割合による遅延損害金を支払わなければならない。
(3) 本件賠償金条項は,被上告人において,入札談合等の不正行為が行われた場合に損害の立証が困難であることに鑑みて,その立証の負担を軽減し,損害の回復を容易にするとともに,不正行為を抑止することを目的として設けられたものであった。
(4) 被上告人と本件共同企業体は,平成21年3月及び同年6月,本件契約の内容を一部変更し,その結果,請負金額を増額した。
(5) 公正取引委員会は,平成22年4月,川崎市内の事業者らが本件工事を含む一連の下水管きょ工事において談合をしていたとして,A建設及び上告人を含む23社に対して排除措置命令を行うとともに,A建設及び上告人を含む20社に対して課徴金納付命令を行った。
A建設に対する排除措置命令及び課徴金納付命令は確定したが,上告人に対する排除措置命令及び課徴金納付命令については,上告人から独禁法49条6項及び50条4項の規定による審判の請求がされたため,確定しなかった。
原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。
公正取引委員会が排除措置命令等を行うとすれば,その対象となるのは,本件工事の請負のみを目的として結成された本件共同企業体ではなく,その構成員であることが容易に想定し得るのであって,これに,本件賠償金条項の目的が,不正行為が行われた場合の被上告人の立証負担の軽減及び請負人による不正行為の抑止にあることも踏まえると,本件賠償金条項にいう排除措置命令等が確定した「乙」とは,本件共同企業体又はその構成員であるA建設若しくは上告人を意味するものと解される。したがって,A建設について排除措置命令及び課徴金納付命令が確定している以上,本件共同企業体は本件賠償金条項に基づいて賠償金の支払義務を負い,上告人も本件連帯条項に基づいてその支払義務を負う。
■本件最高裁判旨の概要
本件賠償金条項における賠償金支払義務は,飽くまでも「乙」に対する排除措置命令等の確定を条件とするものであり,ここにいう「乙」とは,本件約款の文理上は請負人を指すものにすぎない。もっとも,本件賠償金条項は,請負人が共同企業体の場合には,共同企業体だけでなく,その構成員について排除措置命令等が確定したときにも賠償金支払義務を生じさせる趣旨であると解するのが相当であるところ,本件契約において,上記「乙」が「A建設又は上告人」を意味するのか,それとも「A建設及び上告人」を意味するのかは,文言上,一義的に明らかというわけではない。
そして,被上告人は,共同企業体の構成員のうちいずれかの者についてのみ排除措置命令等が確定した場合に,不正行為に関与せずに排除措置命令等を受けていない構成員や,排除措置命令等を受けたが不服申立て手続をとって係争中の構成員にまで賠償金の支払義務を負わせようというのであれば,少なくとも,上記「乙」の後に例えば「(共同企業体にあっては,その構成員のいずれかの者をも含む。)」などと記載するなどの工夫が必要であり,このような記載のないままに,上記「乙」が共同企業体の構成員のいずれかの者をも含むと解し,結果的に,排除措置命令等が確定していない構成員についてまで,請負金額の10分の2相当額もの賠償金の支払義務を確定的に負わせ,かつ,年8.25%の割合による遅延損害金の支払義務も負わせるというのは,上記構成員に不測の不利益を被らせることにもなる。したがって,本件賠償金条項において排除措置命令等が確定したことを要する「乙」とは,本件においては,本件共同企業体又は「A建設及び上告人」をいうものとする点で合意が成立していると解するのが相当である。このように解しても,後に上告人に対する排除措置命令等が確定すれば,被上告人としては改めて上告人に対して賠償金の支払を求めることができるから,本件賠償金条項の目的が不当に害されることにもならない。よって被上告人の請求は理由がないから,第1審判決を取り消し,その請求を棄却することとする。
■コメント
公共工事の請負で、本件賠償金条項の如く排除措置命令等が確定した場合請負人が発注者の公共団体に賠償金を支払う旨の特約が付されている事例において、請負人が共同企業体でありその構成員の一部につき排除措置命令等が確定していない場合、未確定の構成員が賠償金を支払う債務があるかは、上記の如き賠償金支払い特約の解釈にかかるところ、本判例は、「請負金額の10分の2相当額もの賠償金の支払義務を確定的に負わせ,かつ,年8.25%の割合による遅延損害金の支払義務も負わせるというのは,上記構成員に不測の不利益を被らせることにもなる」から、注文者が排除措置命令等が確定していない共同企業体の構成員に対してもこのような支払債務を負担させるためには、例えば「請負人とは共同企業体にあっては,その構成員のいずれかの者をも含む。」などの注記が望まれるとしている。
なお本判決で、千葉裁判官は補足意見で、本件請負契約は、その各条項を子細に比較検討するならば、必要な場合においては,共同企業体と構成員との義務を書き分けているから、甲は,乙とその構成員との立場の違いを認識していたはずであるのに,本件賠償金条項では,その書き分けをしなかったのであるから、当事者の合理的な意思としては,上告人も賠償金の支払義務を了承していたと解する余地はないと説示され、契約解釈のひとつの手法を指摘されている。
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