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判例

判例チェック No.61 東京高裁平成26年5月28日判決・発信者情報開示請求控訴事件(判時2233号113頁)

カテゴリ:判例
判例チェックNo.61
東京高裁平成26年5月28日判決・発信者情報開示請求控訴事件(判時2233号113頁)
 
★チェックポイント
 Twitterへのログイン時の情報に関する発信者情報開示請求の可否(積極)
■事案の概要
 X(被控訴人)は,氏名不詳者によりTwitterに投稿された複数の記事によって名誉が毀損されたなどと主張して,Twitter社(米国法人)から開示を受けた当該投稿に係るアカウントのログイン時のIPアドレス等の保有者であるY(控訴人)に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,当該IPアドレス等に係る発信者情報(本件発信者情報)の開示を求めた。
 原審(東京地判平成26年1月16日・平成25年(ワ)第26322号)がXの請求を認容したため,Yが控訴した。
■判旨(控訴棄却)
 (Xが開示を求める発信者情報は,各投稿時(侵害情報発信時)ではなくアカウントのログイン時のIPアドレス等により特定される情報であり,開示請求の対象とはならない旨のY主張に対し)「法四条一項が開示請求の対象としているのは、「当該権利の侵害に係る発信者情報」であり、この文言及び特定電気通信を用いて行われた加害者不明の権利侵害行為の被害者の当該加害者に対する正当な権利行使の可能性の確保と、発信者の表現の自由及びプライバシーの確保、これに伴い役務提供者が契約者に対して有する守秘義務等の間の調整を図る法の趣旨に照らすと、開示請求の対象が当該権利の侵害情報の発信そのものの発信者情報に限定されているとまでいうことはできない」
 (プロバイダ責任制限法4条1項が「当該権利の侵害に係る発信者情報」の意義について「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」としているところ,それを受けた総務省令が「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称」等と定義している点について)「上記委任の趣旨に照らすと、上記総務省令によって、法四条一項に規定する「当該権利の侵害に係る発信者情報」が「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報」であることが左右されるものとはいえない」
 「ツイッターは、利用者がアカウント及びパスワードを入力することによりログインしなければ利用できないサービスであることに照らすと、ログインするのは当該アカウント使用者である蓋然性が認められるというべきである」
 「以上によれば、本件発信者情報は、当該侵害情報の発信者の特定に資する情報であり、法四条一項の開示請求の対象である「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たると認めるのが相当である」
★コメント
 発信者情報開示請求については,プロバイダのアクセスログ保存期間が長くないこととの関係で,投稿記事が古い場合に発信者の特定を断念せざるを得ないことがあった。本判決は,接続プロバイダ(経由プロバイダ)に対し,記事の投稿行為そのものの情報ではなく,過去に当該記事を投稿したアカウントに対する最新のログイン行為の情報に関する発信者情報開示を命じたものである。本案レベルでこのような発信者情報開示を認めた点で実務上重要であり,投稿記事のアクセスログが廃棄されている場合に発信者の特定に至る可能性が高まった。
 なお,本訴訟の前段階として,Xは平成25年4月にTwitter社を債務者とする発信者情報開示の仮処分を東京地裁に申し立てており,同年7月に開示の仮処分決定が出されているところ,同社は米国法人であるため,当該申立てにおいては国際裁判管轄が問題となった。これについては,当該申立てが「日本において事業を行う者に対する訴え」であり,「日本における業務に関するもの」に当たるとして,民事訴訟法3条の3第5号による国際裁判管轄が認められたようである。
【参照条文】
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一  侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二  当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
(第2項以下略)
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項 に規定する侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものは、次のとおりとする。
一  発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称
二  発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所
三  発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)
(第4号以下略)
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