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判例

判例チェック No.62 最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決・平成25年(受)第650号株主総会決議取消請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック№62
最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決・平成25年(受)第650号株主総会決議取消請求事件
(出典 最高裁ホームページ)
 
★チェックポイント
1 共有株式についての議決権行使につき会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知がなかったため、会社が同条ただし書きの同意をしたとしても、議決権行使が民法の共有に関する規定に違反している場合には、その議決権行使による議決には会社法831条1項1号の取消事由がある。
2 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が会社法831条1項1号の規定違反とならないために、共有者が民法の共有に関する規定に従い採るべき方法は何か。
■事案の概要
 株式が共有に属するとき、共有者が当該株式につき権利を行使するには、権利行使者を定めて会社にその氏名等を通知しなければならない(会社法106条本文)が、会社が承諾する場合は、この限りではない(同条ただし書き)。
 上告人会社は、発行済株式総数3000株の特例有限会社であり、被相続人Aが2000株を、訴外Cが1000株を、それぞれ保有していた。Aは、平成19年死亡し、その妹両名(被上告人と訴外B)が法定相続分各二分の一ずつの割合で共同相続した。しかしこの2000株(以下「本件準共有株式」という。)については、平成22年開催された上告人会社の臨時株主総会(以下「本件総会」という。)当時、遺産分割協議は成立していなかったし、同条の定める議決権行使者の氏名等の通知もなかった。
 Bは、本件総会で、本件準共有株式について議決権を行使し、訴外Cも1000株の議決権行使をした。被上告人は、あらかじめ欠席の旨と株主総会は開催しても無効である旨通知の上欠席した。本件総会では、Dの取締役選任・代表取締役選任、本店所在地変更が決議され、上告人会社は、本件総会でBの議決権行使に同意した。
そこで被上告人は、同法831条1項1号により本件総会の決議取消を求めたところ、原審は被上告人の請求を認める判断を示した。そこで本件上告がなされたが、上告人の主張は、会社法106条ただし書きの同意により、共有者の一部が他の共有者の同意なしにした議決権行使は適法となるというものである。
■判旨
1 共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が会社法106条ただし書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではないと解するのが相当である。
2 共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である。
●コメント
1 株式権の共有は準共有であるから民法264条により共有物に関する民法規定が準用されるところ、同条ただし書きは、「法令に特段の定めあるとき」には民法規定の準用を除外している。本件では、同条の定める「法令の特段の定め」に会社法106条が含まれるか、特に同条ただし書きの「株式会社が当該権利行使に同意したときはこの限りではない。」とあるのが民法264条ただし書きの特段の定めに該当するかが争われたことになる。
2 本判例は、会社法106条の規定は、会社の便宜のため、株式共有者が株主権を行使するに当たっての手続要件を定めたものであり、同条ただし書きの同意は、同条本文違反により失われた会社の利益を放棄する同意に過ぎないこと、これとは異なり、株式共有者各自の法的利益相互間で生じる矛盾対立を共有者間で調整する手段である実体的局面では、民法264条により共有物に関する民法規定が準用され、その意味では同条ただし書きの法令の「特段の定め」には会社法106条ただし書きは含まれないことを明らかにしたものといえる。
3 共有に属する株式は、共有者が各個別の株式につき持分を有することになるから、議決権は共有株式全体につき統一行使となるところ、共有者間で統一行使の方法(例えば同条本文の議決権行使者の指定)、議決権行使内容(議案の賛否)を決定するについて、本判例は、共有物に関する民法規定が準用されるとの前提に立ち、議決権行使の結果が共有株式の処分行為となるか、管理行為となるかにより区分し、直ちに株式処分または株式権の内容を変更することになるなど特段の事情があるとき(処分行為に該当)は全員一致が必要であり、その他管理行為に該当する場合は各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するのが相当であるとする。
 本件事例のような共有関係では、遺産分割前なされた総会決議の有効性は、事実上決議取消請求の出訴の有無により決せられる結果となろう。
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