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判例

判例チェック(速報) 東京高裁平成21年2月3日判決・証券取引法違反事件

カテゴリ:判例
判例チェック(速報)
東京高裁平成21年2月3日判決・証券取引法違反事件
 
★チェックポイント
 証券取引法(現・金融商品取引法)167条2項の「公開買付等を行うことについての決定」(重要事実)に該当するためには,決定に係る内容が確実に行われるという予測が成り立つことまでは要しないが,その決定はある程度の具体的内容を持ち,その実現を真摯に意図していると判断されるものでなければならず,その決定にはそれ相応の実現可能性が必要である。
■裁判例
(結論)
 東京高裁は,ニッポン放送株のインサイダー取引において,証券取引法違反の罪に問われた村上ファンド元代表村上世彰被告人に対し,懲役2年(実刑判決)としていた第一審(東京地裁平成19年7月19日判決)を破棄し,懲役2年(執行猶予3年)の判決を言い渡した(村上被告人上告)。
(争点)
 村上被告人がライブドア側から聞いたとされるニッポン放送株の大量取得の方針が証券取引法上の「公開買付等を行うことについての決定」(重要事実)に該当するか。
(判決要旨)
 証券取引法167条2項の「決定」該当性については,「決定に係る内容が確実に行われるという予測が成り立つことまでは要しないが,その決定はある程度の具体的内容を持ち,その実現を真摯に意図していると判断されるものでなければならず,その決定にはそれ相応の実現可能性が必要である」として,具体的には「対象企業の財務内容等の調査状況,公開買付等実施のための内部の計画状況と対外的な交渉状況などを総合的に検討して個別具体的に判断すべき」である。
 ライブドアの堀江元社長及び宮内元取締役は,業務を決定する機関に該当し,両名が「平成16年11月8日」,村上被告に大量取得の方針を伝えた時点で,投資家の投資判断に影響を及ぼし得る程度に十分達しており,「決定」の伝達を受けたと認定した。
 なお,量刑については,「インサイダー取引の買い付け額は巨額で,株式取引のプロによる犯罪。刑事責任を軽視できない。市場操作的な行為で社会的にみてひんしゅくを買う」とした一方で「当初からインサイダー情報で利得を得ようとしたものではなく,現在は株取引の世界から身を引いている」として執行猶予を付した。
               【注:以上は新聞情報に基づく。判決文の確認後に改訂する予定。】
●コメント
1 本判決に関する評価等
 第一審は,上記「決定」該当性について,「機関において公開買付け等の実現を意図して行ったことを要するが,それで足り,実現可能性が全くない場合は除かれるが,あれば足り,その高低は問題にならない」として,本判決よりも早い「平成16年9月15日」,ライブドアの堀江元社長及び宮内元取締役が社員に対しニッポン放送株取得にむけて具体的指示をした時点で,決定があったと判断していたが,公開買付け等の実現可能性があれば足りるというような基準に対しては批判されていた。今回の控訴審は,かかる第一審の基準を明確に否定し,上記のとおり証券取引法167条2項の「決定」を限定的に解釈した点で一定の評価がなされている。ただし,今回の控訴審の基準でも「相応の実現可能性」の判断は容易ではないものと思われる。なお,最高裁の判断には注視したいところである。
2 最近のインサイダー取引問題等
 近時において,NHK職員によるインサイダー取引問題,野村證券の元社員によるインサイダー取引問題等,多くのインサイダー取引問題が発生している。最近も東証1部上場の電機メーカーの「パイオニア」の元常勤監査役のインサイダー取引問題が報道されている(平成21年3月12日付け読売新聞等)。
3 インサイダー取引規制及びそのリスク等
 そもそもインサイダー取引規制は,上記条項の解釈だけでなく,他の条項においても必ずしも明確でないところがある一方,その違反に対しては,刑事罰(違反者個人については5年以下の懲役または500万円以下の罰金,法人については5億円以下の罰金。金融商品取引法197条の2第13号)や課徴金の制裁が存する。また,インサイダー取引防止体制の構築は,内部統制システムの内容を構成するものと考えられることから,その構築が不十分であれば取締役の善管注意義務違反を問われる可能性(株主代表訴訟リスク)が存する。
 したがって,株式等の売買に係る計画についてはもとより,インサイダー取引防止体制の構築についても,弁護士のアドバイスを求めるなど,慎重に対応されたい。
弁護士法人
肥後橋法律事務所
 
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