本文へ移動

判例

判例チェック No.69 最高裁判所第2小法廷H27年11月20日判決・H26年(受)第1458号遺言無効確認請求事件(出典 最高裁HP)

2016-05-18
カテゴリ:判例
判例チェック No.69 
最高裁判所第2小法廷平成27年11月20日判決・平成26年(受)第1458号遺言無効確認請求事件(出典 最高裁HP)
 
☆チェックポイント
1本の斜線で自筆証書遺言を無効にできるか(積極)
 
■事案の概要
(1) Aは,昭和61年6月22日,罫線が印刷された1枚の用紙に同人の遺産の大半を被上告人に相続させる内容の本件遺言の全文,日付及び氏名を自書し,氏名の末尾に同人の印を押して,本件遺言書を作成した。
(2) Aは,平成14年5月に死亡した。その後,本件遺言書が発見されたが, その時点で,本件遺言書には,その文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線(以下「本件斜線」という。)が引かれていた。本件斜線は,Aが故意に引いたものである。
原審は,上記事実関係の下において,本件斜線が引かれた後も本件遺言書の元の文字が判読できる状態である以上,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段により遺言を撤回したものとみなされる「故意に遺言書を破棄したとき」には該当しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 
■本件判例の要旨
民法は,自筆証書である遺言書に改変等を加える行為について,それが遺言書中の加除その他の変更に当たる場合には,968条2項所定の厳格な方式を遵守したときに限って変更としての効力を認める一方で,それが遺言書の破棄に当たる場合には,遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすこととしている(1024条前段)。そして,前者は,遺言の効力を維持することを前提に遺言書の一部を変更する場合を想定した規定であるから, 遺言書の一部を抹消した後にもなお元の文字が判読できる状態であれば,民法968条2項所定の方式を具備していない限り,抹消としての効力を否定するという判 断もあり得よう。ところが,本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は,その行為の有する一般的な意味に照らして,その遺言書の全体を不要のものとし,そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから,その行為の効力について,一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。
以上によれば,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段 所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり,これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって,本件遺言は, 効力を有しない。
 
☆コメント
民法は,遺言者の故意による遺言書の破棄は,破棄された部分につき遺言の取消があったものと見なし(1024条前文),また,自筆証書遺言書に加除その他の変更を加えるには厳格な方式を定める(民法968条2項)。本判例は,同法1024条前文は,破棄部分が遺言全部にわたる場合と,一部に止まる場合の双方につき,当該部分は撤回により無効となる旨を定め,968条2項は,遺言の一部につき加除または変更を加える場合の方法を定めるものであるとの区別に立って,本件事案では,判示のような本件斜線を引く行為は,1024条の破棄に該当すると判断した事例判決であるが,本件遺言書作成後遺言者の死亡まで約16年間経過していることや遺言内容や訴訟経過からすると,遺言者は,一旦原遺言を作成したものの,その後の事情の変更などから即時書き改める必要を感じて原遺言を破棄するに当たり,後日新たな遺言に書き改める際の参考に供するため,原遺言の内容を判読できるような本件斜線による破棄の記載方法を執ったことが一件記録から判断できる事案ではなかろうか。
弁護士法人
肥後橋法律事務所
 
〒550-0001
大阪市西区土佐堀1丁目3番7号 
肥後橋シミズビル10階
  TEL 06-6441-0645
  FAX 06-6441-0622
TOPへ戻る