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判例

判例チェックNo.74 最高裁第2小法廷平成28年7月8日判決・平成26年(行ヒ)第494号遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 (出典 最高裁HP)

2016-07-29
カテゴリ:判例
判例チェックNo.74 
最高裁第2小法廷平成28年7月8日判決・平成26年(行ヒ)第494号遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 (出典 最高裁HP)
 
★チェックポイント
労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡した場合は,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当たると解されるか(積極)
 
■事案の概要
亡Aは上司の指示により職場での残業を一時中止して中国人研修生(以下「本件研修生」という。)の歓送迎会(以下「本件歓送迎会」という。)に出席し、その終了後職場に戻る途中に本件研修生をその宿舎に送り届けるため自動車を運転走行中、対向車線を進行中の大型貨物自動車と衝突する交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した。
Aの妻(上告人)が労災請求をしたが、労基署長は、本件事故の業務起因性を否定して不支給決定をした。
妻は不支給決定取消を求め出訴したところ、第1審は請求を認めず、原審もまた、本件歓送迎会は職場従業員の私的な会合であり、Aは中途参加した、Aは会合終了後に任意に参加者を送る途中本件事故を引き起こして事故死したもので、事業主の支配下にある状態にはなかったからA死亡には業務起因性はないとして、不支給決定を支持している。
最高裁は、Aの自動車運転が事業主の支配下にある状態といえるとして業務起因性を認め、第1審判決、原判決とも取り消して、不支給決定を取り消した。すなわち、本判例は、労災保険法7条1項の業務上の死亡が保険給付の対象となるには、業務上の事由によることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において労働災害が発生したことを要するとして最高裁昭和59年5月29日第3小法廷判決(裁判集民事142号183頁)を引用し、本件事故当時Aは事業主の支配下にある状態であったとして不支給決定を取り消した。
 
■判旨
本件事例においては、労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことは,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当たるというべきである。
 
■本判例の理由の要旨
本判例判旨の前提とされた事実関係の要旨はおおむね以下のとおりである。
1 Aの職場の上司は、事業主会社の親会社の中国における子会社から期間を限定して受け入れていた中国人研修生の交代期となり新旧の研修生の顔ぶれが揃ったので、その歓送迎会を計画し、職場の全員に参加を要請した。Aは、社長命令の営業戦略資料の提出期限が本件歓送迎会の翌日であるため、本件歓送迎会の前日に参加を断ったが、職場上司から提出期限を守れないようなら本件歓送迎会終了後に自分も資料作成作業に協力するなどと強い意向を示されて参加を承諾した。
2 Aは当日本件歓送迎会の開始時刻になっても職場で残業して資料作成作業をしていたが、一時これを中止し本件歓送迎会に遅れて参加し、それが終了したので中絶中の作業を職場で続行しようとした。一方職場上司は、本件研修生をその宿舎から本件歓送迎会の会場まで送迎する予定をしていたので、Aは職場に戻る途中本件研修生を宿舎に送り届けることになり社用車を運転中本件事故にあった。なお、Aは本件歓送迎会ではビールを勧められても拒絶しアルコール性飲料も飲んでいない。
これらの事情からすれば、事業主は、Aに対し、これら一連の行動をとることを要請したといえる。
3 本件歓送迎会は、その趣旨、事業主が費用の負担をしたこと等から見て、研修の目的を達成するため事業主において企画された行事の一環であり、本件研修生と従業員との親睦を図ることにより事業主自体更には事業主とその親会社の中国における子会社との関係強化等に寄与するものであり、事業主の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。
4 本件歓送迎会終了後中国人研修生を宿舎に送るのは、もともとはAの上司の担当が予定されていた。
5 これら諸事情からすると、Aは本件事故当時事業主の支配下にあったというべきである。
 
★コメント
本件事案は業務災害(労災補償法7条1項1号)に該当するかの問題であるが、通勤災害には最高裁昭和54年12月7日判決(最高裁判所裁判集民事128号169頁)、本判例で引用されている最高裁昭和59年5月29日第3小法廷判決(その原審判決である仙台高昭和57年9月29日判決は、判例時報1066号150頁に搭載されている。)をはじめ通勤途上の災害であっても常に業務遂行性を欠くことになる訳ではなく、使用者の支配下にあると認められる特別の事情があるときは業務遂行性を肯定できると一般に解されている。本判例で引用にかかる最高裁判決は、タイル工事業者に雇用されているタイル職人が自己所有の自動車を運転して工事現場に出勤する途中発生した死亡事故につき、通勤途上において発生した災害は、(中略)労働者が通勤途上においてなお事業者の支配下に置かれていたと認めるべき特別の事情がある場合を除き、業務上の事由によるものということはできないと解すべきであるとしたもののようである。
本件事案は、上記最高裁判例2件に比べ事業者の支配がより強度であったといえるだろう。
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