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判例

判例チェックNo.75 最高裁第1小法廷平成28年12月1日判決・平成27年(受)477号 損害賠償等,境界確定等請求事件(出典 最高裁HP)

2016-12-12
カテゴリ:判例
判例チェックNo.75 
最高裁第1小法廷平成28年12月1日判決・平成27年(受)477号 損害賠償等,境界確定等請求事件(出典 最高裁HP)
 
★チェックポイント
地上建物に対する仮差押えが本執行に移行して強制競売手続がされた場合において,仮差押えの時点で土地及び地上建物の所有者が同一であったとき,差押えの時点で土地が第三者に譲渡されていたとしても,法定地上権が成立するか(積極)。
 
■事案の概要
1 Aは,甲,乙両土地と両土地上にある本件建物を所有していた(なお,判文から推察すると,本件建物は,甲土地と乙土地の一部(原判決主文第2項(3)掲記の土地。以下「本件係争土地部分」という。)に跨がって建築されているもののようである。)。
2 Aは,本件建物と甲土地につき本件仮差押を受けた後,乙土地を被上告人に贈与した(新聞報道によると,被上告人はAの妻らしい。)。その後,本件建物と甲土地につき本件強制競売手続が開始した。本件強制競売手続は,本件仮差押が本執行に移行したものである。
3 そして上告人は,本件強制競売手続における売却により,本件建物と甲土地を買い受けてその所有権を取得した。
4 上告人は,本件強制競売手続の開始決定による差し押さえがされた後,本件建物と甲土地並びに乙土地のうち本件係争土地部分を占有している。
5 そこで被上告人は上告人に対し,本件係争土地部分も自己が贈与を受けて所有する乙土地に含まれるとしてその明け渡しと,占有開始以降明け渡し済みまでの賃料相当損害金の支払を求めた。これに対し,上告人は,本件係争土地部分については上告人を権利者とする法定地上権が成立していると争った。
6 原判決は,上告人の法定地上権を否定したが,その理由の要旨は,そもそも乙土地の所有者Aは,乙土地の譲渡に際し地上建物のために土地使用権を設定することができるのに,それをしなかった,また民事執行法81条は,建物と土地とが同じ債務者の所有に属する時期に差し押さえられ,かつ売却された場合に,法定地上権を認めるものであるのに,上告人主張は同条の明文に反する,というにある。
 
■本判決の判旨(原判決一部取消,その余の上告は棄却)
地上建物に仮差押えがされ,その後,当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において,土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは,その後に土地が第三者に譲渡された結果,当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったとしても,法定地上権が成立するというべきである。
 
★ コメント
民事執行法81条の法定地上権は民法388条の趣旨を強制競売にも補充・拡大したものであるが,土地と建物が同一所有者に帰属する時点は差押時説,売却時説があり,仮差押執行が先行する場合には仮差押時説があるところ,本判例は仮差押時説を採用した。
その根拠として本判例は,「民事執行法81条の法定地上権の制度は,土地及び地上建物が同一の所有者に属する場合には,土地の使用権を設定することが法律上不可能であるので,強制競売手続により土地と地上建物の所有者を異にするに至ったときに地上建物の所有者のために地上権が設定されたものとみなすことにより,地上建物の収去を余儀なくされることによる社会経済上の損失を防止しようとするものである。そして,地上建物の仮差押えの時点で土地及び地上建物が同一の所有者に属していた場合も,当該仮差押えの時点では土地の使用権を設定することができず,その後に土地が第三者に譲渡されたときにも地上建物につき土地の使用権が設定されるとは限らないのであって,この場合に当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続により買受人が取得した地上建物につき法定地上権を成立させるものとすることは,地上建物の収去による社会経済上の損失を防止しようとする民事執行法81条の趣旨に沿うものである。また,この場合に地上建物に仮差押えをした債権者は,地上建物の存続を前提に仮差押えをしたものであるから,地上建物につき法定地上権が成立しないとすれば,不測の損害を被ることとなり,相当ではないというべきである。」と説示している。
本判例は,従来 学説の対立も見られた問題について,社会経済上の損失防止,地上建物の仮差押債権者の不測の損害防止を重視しての解決を示した,新判例である。
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