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判例

判例チェックNo.81 最高裁第二小法廷H29/8/30決定・H29(許)第7号売渡株式等の売買価格決定申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

2017-09-19
カテゴリ:判例
判例チェックNo.81 
最高裁第二小法廷平成29年8月30日決定・平成29年(許)第7号売渡株式等の売買価格決定申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(出典 最高裁HP)
 
★チェックポイント
会社法179条の4第1項1号の通知又は同号及び社債,株式等の振替に関する法律161条2項の公告がされた後に会社法179条の2第1項2号に規定する売渡株式を譲り受けた者は,同法179条の8第1項の売買価格の決定の申立てをすることができるか。(消極)
 
■事案の概要
本件は,いわゆる2段階買収方式で行われていたTOBの方式を簡略化して平成26年会社法改正で取り入れられた株式等売渡請求での事例である。
株式等売渡請求手続は,株式会社の総株主の議決権の9割以上を有する株主(会社法(以下「法」という。)179条1項の特別支配株主)が他の株主(売渡株主)の有する株式全部(以下「売渡株式」という。)を取得したいときは,当該会社に対し,売渡株式の対価,その取得の日等を定めて株式売渡請求をすることができる。当該会社は,株式売渡請求を承認したときは,売渡株主に売渡対価,取得日を通知又は公告をする。この通知又は公告により,株式売渡請求がされたものとみなされる。これに反対の売渡株主は,特別支配株主に対し,売渡株式の取得の中止請求ができるし,裁判所に対し売渡株式の売買価格の決定を申立てることができる。
(1) 本件の利害関係参加人は,振替株式を発行しているA株式会社(以下「本件対象会社」という。)の株式を公開買付けにより取得して特別支配株主となり,平成27年12月,本件対象会社に対し,株式売渡請求をしようとする旨と,その他株式売渡請求によりその有する株式を売り渡す株主(以下「売渡株主」という。)に対してその株式(以下「売渡株式」という。)の対価として交付する金銭の額(以下「対価の額」という。)等,法179条の2第1項各号に掲げる事項を通知した。
(2) 本件対象会社は,上記の通知に係る株式売渡請求を承認し,法179条の4第1項1号及び社債,株式等の振替に関する法律161条2項に基づき,上記の承認をした旨,対価の額等,法179条の4第1項1号に定める事項について公告(以下「本件公告」という。)をした。
(3) 抗告人は,本件公告後に,本件対象会社の売渡株式のうち3000株(以下「本件株式」という。)を譲り受けた。そして本件株式について,法179条の8第1項に基づく売買価格の決定の申立て(以下「売買価格決定の申立て」という。)をしたところ,却下された。そこで抗告人は,再抗告を申立てたが,その理由は,法179条の8第1項は,売買価格決定の申立てをすることができる売渡株主について何ら限定していないから,本件公告後に売渡株式を譲り受けた者も売買価格決定の申立てをすることができるというものである。
 
■判旨
株式等売渡請求(会社法179条)において,同法179条の4第1項1号,社債株式振替法161条2項に基づく通知又は公告がなされた後に売渡株式を譲り受けた者は,同法178条の8第1項に基づく売買価格決定の申立てをすることができない。
 
★コメント
1 判旨の理由の要旨は,株式会社(対象会社)の特別支配株主が会社法179条の2所定の方法により同法179条第1項所定の株式等売渡請求をし,対象会社が株主総会の決議を経ることなく,これを承認し,その旨及び対価の額等を売渡株主に通知をしたときは,その到達と同時に,売渡株主が有する株式全部について,同法179条の4第3項により,個々の売渡株主の承諾を要しないで,法律上当然に特別支配株主と売渡株主との間に売渡株式についての売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じ,特別支配株主が株式等売渡請求において定めた取得日に売渡株式の全部を取得するものである(法179条の9第1項)と解される,というのである。
2 このような判旨の説明からすると,抗告人が譲り受けたと主張する3000株は,本件株式等売渡請求の通知又は公告がなされるまでは何ら法的な特別の制約がない株式であるが,対象会社の承認通知到達と同時に,対象会社の承認で指定された取得日(法179条の2第1項5号)には同様に指定された対価(同条同項2号)で前主から特別支配株主に売り渡されるという,法定の制約を受けることになり,この法定の制約の結果,抗告人は譲受に係る3000株については,その売買価格決定申立の資格を失うというのであろう。
3 本件決定では,以上の説明に続いて,「法179条の8第1項が売買価格決定の申立ての制度を設けた趣旨は,上記の通知又は公告により,その時点における対象会社の株主が,その意思にかかわらず定められた対価の額で株式を売り渡すことになることから,そのような株主であって上記の対価の額に不服がある者に対し適正な対価を得る機会を与えることにあると解されるのであり,上記の通知又は公告により株式を売り渡すことになることが確定した後に売渡株式を譲り受けた者は,同項による保護の対象として想定されていないと解するのが相当である。」と述べている点も参考になるだろう。
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