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判例

相続を争族にしないために(3)ー遺言の利用についてー

カテゴリ:相続
相続を争族にしないために(3)ー遺言の利用についてー
 
1 遺言で特定の相続人に相続させるとの定めのない遺産が遺産分割の対象になることはこのシリーズの第1回(相続を争族にしないために 遺言の利用について (1))で説明したとおりです。遺贈されなかった遺産についても同様です。
  そこで全相続人に、遺留分を害しない範囲で、全遺産を個々にそれぞれ相続させる遺言が争族問題回避に最良の方策です。
2 しかし、いろいろな事情から、相続財産のうち特定の財産については特定の相続人に相続させる遺言はできるが、その余の財産については、それぞれ特定の相続人に相続させる遺言ができない場合もあると思います。
  そのような場合にも、争族問題をできるだけ回避するためには、如何に説明するような点を注意する必要があります。
3 相続財産全部につきその帰属先を定めないで、相続財産のうち特定の財産についてだけ特定の相続人に相続させる、又は取得させる遺言には、次の3種類があるといわれています。
(1) その相続人にはその財産以外はやらない。
(2) その相続人には、その財産を法定相続分を超えて特に他の相続人よりも多くやる。
(3) その相続人には、その財産をやるが、法定相続分を超えて多くやるつもりではない。
4 前項の(1)は、遺言による相続分の指定です。相続人は、遺産につき法定相続分があるところ(民法900条以下)、この法定相続分は遺言で変更することができます。ただ、どのように変更してもよいのかというと、民法902条は、遺留分に関する民法の規定に反することはできないと定めています。つまり、特定の相続人に価額にして遺産の大部分を相続させたりすると、場合によっては他の相続人が遺留分減殺請求をして相続争いが深刻化することもあり得ます。
  なお、遺言で相続人の一人又は数人の相続分のみを定めたときは、その他の相続人の相続分は、法定相続分の割合になります(民法902条2項)。
5 第3項の(2)の場合も、遺言による相続分の指定になります。遺言で特定の相続人Aに特定の財産甲を相続させるとして、その他の遺産については、相続人全員が法定相続分にしたがって遺産分割することになります。この場合も、4と同じく、遺言で特定の相続人Aが特に多く相続できるとされた甲遺産の額によっては、遺留分減殺請求の問題が起こるおそれがあります。
6 第3項の(3)の場合は、遺産分割は法定相続分にしたがって行うが、ただ遺言で特定の相続人Aにやると定められた甲遺産は、相続人Aに取得させるという遺産分割をしなければならないことになります。つまり、遺産分割の方法を指定する遺言です。
7 特定の相続人Aに特定の財産を相続させる遺言をしても、その他の遺産については相続人を指定しない場合、遺言が以上の3つのいずれの趣旨であるかによって、遺産分割の取扱が変化します。(1)の場合なのかどうかは、特定の相続人Aが受け取れる遺産に大きく影響します。また(2)なのか(3)なのかは、相続人全員に影響します。
  遺言でこれらの点を明確にしておかないと、まず遺言の解釈の段階で争族問題が発生して後々まで根を曳くことになるので、注意が必要です。
(文責:野田殷稔)
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