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判例

判例チェック№87 最高裁第二小法廷平成31年1月23日決定・平成30年(許)第1号 譲渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(出典最高裁HP)

2019-03-08
判例チェック№87
 
最高裁第二小法廷平成31年1月23日決定・平成30年(許)第1号 譲渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
(出典 最高裁ホームページ)
 
★チェックポイント
 
 
 被相続人がその有する振替株式等につき社債等振替法2条4項に規定する口座管理機関の振替口座簿に銘柄、数量等の記録を残して死亡し、振替株式等につき共同相続が開始した場合に、共同相続人の1人に対しその債権者が申立てた差押命令は、当該振替株式等について債務者名義の口座に記録等がされていないからといって、直ちに無効となるか(消極)。
 
 執行裁判所は,譲渡命令の申立てが振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分についてのものであるからといって、直ちに当該譲渡命令を発することはできないといえるか(消極)。
 
 
■事案の概要
 
 
 亡Aは、社債等振替法2条4項に規定する口座管理機関(証券会社)が備える振替口座簿に、株式、投資信託受益権及び投資口(以下「本件振替証券」という。)につき加入者として記録されていたが、死亡したので、本件振替証券は、Y(本件原決定の相手方)及び他の4名の共有となった。
 
 
 一方X(本件原決定の抗告人)は,Yに対し有する債権に基づき,本件振替証券の共有持分(以下「本件持分」という。)につき差押を申立て本件差押命令を得た上で、譲渡命令の申立(以下「本件申立」という。)をして同命令を得たので、Yは執行抗告を申立てたところ、原審は譲渡命令を取り消したので、Xが本件許可抗告をした。
 
 
 
 
 
 
 原決定が本件申立てを却下した理由第1点は、先ず本件差押命令の適法性について、「社債等振替法の下では、振替社債等の権利の帰属は同法による口座管理機関の備え付けるべき振替口座簿の記載又は記録(以下「記録等」という。)により定まるものとしていること等に照らすと、振替社債等に関する強制執行の手続においては、執行裁判所は、債務者が差押命令の対象となる振替社債等を有するか否かを振替口座簿の記録等により審査すべきであり、債務者以外の者の名義の口座に記録等がされた振替社債等に対する差押命令を発することはできない」と立論し、「したがって、本件持分に係る株式、投資信託受益権及び投資口(本件振替証券)については、相手方Y名義の口座に記録等がされていないから、本件差押命令は違法であり、本件譲渡命令申立は不適法である」というものである。
 
 
 
 
 なお、原決定は、上記3の理由に補足して、「共同相続された振替社債等については、共同相続人全員の名義の口座に記録等することはできるものの、共同相続人の1人の名義の口座にその共有持分の記録等をすることはできず、当該共有持分についての譲渡命令が確定しても当該譲渡命令による譲渡の効力を生じさせることはできないから、執行裁判所は当該譲渡命令を発することはできず、本件申立ては不適法である」と論じている。
 
■判旨
 
 
 被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等が共同相続された場合において,その共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は,当該振替株式等について債務者名義の口座に記録等がされていないとの一事をもって違法であるということはできないと解するのが相当である。
 
 執行裁判所は,譲渡命令の申立てが振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分についてのものであることから,直ちに当該譲渡命令を発することができないとはいえないと解するのが相当である。
 
★コメント
 
 最高裁は、判旨と異なる見解の下に、本件申立てを却下した原審判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして,これを破棄し、本件を原審に差し戻した。
 
 
 
 
 
 
 最高裁が本件決定の判旨1の理由とするところは、要するに、「社債等振替法は、振替株式、振替投資信託受益権及び振替投資口(以下併せて「振替株式等」という。)についての権利の帰属は、振替口座簿の記載等により定まるものとしている(例えば、振替株式につき同法128条1項.その他は省略)。また、被相続人が有していた振替株式等は相続開始とともに当然に相続人に承継され、口座管理機関が振替株式等の振替を行うための口座を開設した者としての地位も上記と同様に相続人に承継されると解される(民法896条本文)。そうすると、被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等は、相続人の口座に記録等がされているものとみることができる。このことは、共同相続の場合であっても異ならない。」というのである。そしてそれ故に本件差押命令は不適法とはいえないと結論づけるのである。
 
 
 
 
 最高裁が本件決定の判旨2の理由とするところは、「共同相続された振替株式等につき共同相続人の1人の名義の口座にその共有持分の記録等をすることができないからといって,当該共有持分についての譲渡命令が確定した結果(筆者注:譲渡命令確定の場合にはその結果という趣旨に解される。)、当該譲渡命令による譲渡の効力が生じ得ないものとはいえない。そして、法令上譲渡が禁止されず、適法に差押命令の対象とされた財産について、これが振替株式等の共有持分であることのみから、執行裁判所が譲渡命令を発することができないとする理由はないというべきである。」というものである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 なお、本件判旨2は、前記「事案の概要4」で引用した原判示に係るものであろうが、この点に関し、本件を裁判長として担当された鬼丸かおる裁判官は、大要次のような補足意見を述べておられる。
 すなわち、「振替株式等が相続開始により共同相続人らの共有となったことは容易に想定できることに照らせば、口座管理機関が共有者全員の名義の共有口座を開設してこれに記録等をすることが禁じられているとは解されない。」「これを前提とすれば、振替株式等が共同相続の対象となって共同相続人の1人である債務者(筆者注:Yが該当する。)に承継された共有持分(以下「債務者共有持分」という。)についての譲渡命令を得た差押債権者としては、被相続人名義の口座に記録等がされている状態のまま債務者以外の共同相続人全員との間で共有物の分割をして単独所有とする」とか、「債務者共有持分を含む振替株式等につき、被相続人名義の口座から債務者以外の共同相続人全員及び差押債権者の共有口座への振替手続を行うことによって、自らが共有者の1人であることを表示することができると考えられる。」とされている。
 同裁判官は、これに続いて、しかしながら、そのためには債務者以外の共同相続人全員の協力が必要であるだろうし、また譲渡命令が確定した場合であっても、その譲渡命令が口座管理機関に送達された時に,差押債権者の債権及び執行費用は執行裁判所の定めた譲渡価額で弁済されたとみなされる(民事執行規則150条の7第6項において準用する民事執行法160条)から、差押債権者は多くのリスクを負担しなければならないことになるので、「現状においては、差押債権者としては、差押債務者以外の共同相続人全員との間で共有物分割を行って債務者共有持分について換価を図るのが現実的であると考えられるが、このような余地があり得る以上、債務者共有持分についての譲渡命令申立てがおよそ不適法とすべきものではない。」と述べておられる。
以上
肥後橋法律事務所
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