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判例

判例チェック№88 最高裁第3小法廷平成31年2月19日判決・平成29年(受)第1456号 損害賠償請求事件(出典 最高裁ホームページ)

2019-03-08
判例チェック №88
最高裁第3小法廷平成31年2月19日判決・平成29年(受)第1456号 損害賠償請求事件
(出典 最高裁ホームページ)
 
★チェックポイント
配偶者の不貞行為があった後離婚した他方の配偶者が、不貞行為の相手方に対し、離婚に伴う慰謝料を請求できるのは、特段の事情がある場合に限られるか(積極)。
 
■事案の概要
 
 
 
 
 上告人は、被上告人の妻Aと不貞行為に及んだ。被上告人は、これにより妻Aとの離婚をやむなくされ、精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、上告人に対し、離婚に伴う慰謝料等の支払を求める訴訟を提起したところ、第1審判決は被上告人の請求の一部を認容した。控訴審もこれを認容したので、上告人は全部棄却を求めて上告したところ、最高裁は、第1審判決を取消し、被上告人の請求は全部認められないとの趣旨の本判決をした。
 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 
(1)
 
 被上告人(つまり元夫)とAは,平成6年3月,婚姻の届出をし,同年8月に長男を,平成7年10月に長女をもうけた。
 
(2)
 
 被上告人は,婚姻後,Aらと同居していたが,仕事のため帰宅しないことが多く,Aが上告人の勤務先会社に入社した平成20年12月以降は,Aと性交渉がない状態になっていた。
 
(3)
 
 上告人は,平成20年12月頃,上記勤務先会社において,Aと知り合い,平成21年6月以降,Aと不貞行為に及ぶようになった。
 
(4)
 
 被上告人は,平成22年5月頃,上告人とAとの不貞関係を知った。Aは,その頃,上告人との不貞関係を解消し,被上告人との同居を続けた。
 
(5)
 
 Aは,平成26年4月頃,長女が大学に進学したのを機に,被上告人と別居し,その後半年間,被上告人のもとに帰ることも,被上告人に連絡を取ることもなかった。
 
 
(6)
 
 被上告人は,平成26年11月頃,横浜家庭裁判所川崎支部に対し,Aを相手方として,夫婦関係調整の調停を申し立て,平成27年2月25日,Aとの間で離婚の調停が成立した。
 
 
 
 
 
 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
 すなわち、「上告人とAとの不貞行為により被上告人とAとの婚姻関係が破綻して離婚するに至ったものであるから,上告人は,両者を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い,被上告人は,上告人に対し,離婚に伴う慰謝料を請求することができる。」というのである。
       
■判旨
夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者が当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価するべき特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求できない。
 
★コメント
 本判決の判旨に至る理由の説示は、以下のとおりである。
 
(1)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
 したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
 以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
 
(2)
 
 
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,被上告人の妻であったAと不貞行為に及んだものであるが,これが発覚した頃にAとの不貞関係は解消されており,離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。したがって,被上告人は,上告人に対し,離婚に伴う慰謝料を請求することができないというべきである。
 
 
 
 
 離婚に至る諸事情は、多様な夫婦間の多様な人情の機微の問題であり、それを第三者が何処まで踏み込んで主張立証するにも一定の限界がある。不貞行為の宥恕や家族の将来を考慮すれば民法770条1項1号の単純な適用では済まされないこともあろう。離婚による精神的苦痛も個人により異なることなどを考慮すると、本判例が示す慰謝料請求認容にあたり考慮すべき特段の事情の説示も理解できる。本判例によれば今後は離婚後に元の夫婦の一方が不貞行為に加担した第三者に対する婚姻関係破壊責任を追及する慰謝料請求訴訟は、原告側の立証上の負担が大きくなるであろう。
 
以上
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肥後橋法律事務所
 
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