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判例

判例チェック№86 最高裁判所第二小法廷平成30年10月19日判決・平成29年(受)第1735号 遺留分減殺請求事件(出典最高裁ホームページ)

2019-03-06
判例チェック№86
最高裁判所第二小法廷平成30年10月19日判決・平成29年(受)第1735号 遺留分減殺請求事件
(出典最高裁ホームページ)
 
★チェックポイント
共同相続人間でされた無償による相続分の譲渡は,原則として、譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たるか(積極)。
 
■事案の概要
(1)
 
 本件当事者双方の父Aが死亡し、その相続人は配偶者(当事者双方の母)B、子である当事者双方と同じく子であるC、上告人X、被上告人Y及びYの配偶者でありかつA,Bと養子縁組みをしたDであった。
(2)
 
 Aの遺産分割調停手続において,遺産分割が未了の間に,BとDはYに対し,各自の相続分を譲渡し(以下,Bのした相続分の譲渡を「本件相続分譲渡」という。),同手続から脱退した。
(3)
 更にBは、Aの相続により取得したそれぞれの相続分をYに相続させる遺言をした。
(4)
 その後、亡Aの遺産分割調停が成立し、XとYおよびCはそれぞれ遺産の一部を取得した。
(5)
 
 その後Bは死亡した。その法定相続人は、X,Y,C及びDであるが、Bの遺産は、積極消極ほぼ等しい状態であった。
(6)
 
 
 
 ところが、Xは、Yに対し、Yが亡Aの遺留分減殺調停により取得した不動産の一部につき遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求める訴訟を提起し、その理由として、本件相続分譲渡、すなわちBがAの相続による相続分をYに譲渡したことはすなわち、本件相続分譲渡はBのYに対する生前贈与となり、これにより自己の遺留分が侵害されたから遺留分回復請求権に基づき請求すると主張した。
(7)
 
 
 
 
 
 
 原判決は、Xの請求を棄却した。その理由は、「相続分の譲渡による相続財産の持分の移転は,遺産分割が終了するまでの暫定的なものであり,最終的に遺産分割が確定すれば,その遡及効によって,相続分の譲受人は相続開始時に遡って被相続人から直接財産を取得したことになるから,譲渡人から譲受人に相続財産の贈与があったとは観念できない。また,相続分の譲渡は必ずしも譲受人に経済的利益をもたらすものとはいえず,譲渡に係る相続分に経済的利益があるか否かは当該相続分の積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定しなければ判明しないものである。したがって,本件相続分譲渡は,その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与には当たらない。」というものである。
 
■判旨
共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。
 
★コメント
本判決が、判旨の理由として述べるところは、以下のとおりである。
「共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し,相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。
 そして,相続分の譲渡を受けた共同相続人は,従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり,当該遺産分割手続等において,他の共同相続人に対し,従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることができることとなる。
 このように,相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる。遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは,以上のように解することの妨げとなるものではない。
  したがって,共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。」
 本件判旨に従えば、差戻後の原審は、亡父の相続開始の状態に立ち戻って改めて亡母の遺産分割の結果がXの遺留分を侵害するかを判断することになるであろうが、本件では亡父の死亡と亡母の死亡との間の時間的経過が少ないけれども、その間における遺産価格の変動が大きいなど、事案によっては解決が困難となるであろう。このようなことを考えると、本件判決が無償の相続分譲渡を贈与と判断できないとする除外事由は、狭きに失するのではなかろうか。もっとも最高裁判決の判旨は、本来事案に即したものであってむやみに一般化するべきものではないから、そう深刻に考える必要はないのかも知れない。
 しかし、今日のいわゆる負動産問題の原因が相続関係の複雑化にあることも考慮するならば、その回避には田舎の不動産につき遠隔地に居住する相続人が遺産分割協議の煩雑さを回避するため早期に相続分を譲渡しておくことも有効であることを考慮すると、本判決の意義は少なからざるものがあるといえるかも知れない。
 
以上
 
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