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判例

判例チェック№90 東京高裁H29.11.30判決 損害賠償請求事件(出典 判例時報2397号14頁)

2020-02-21
判例チェック №90
 
東京高裁H29.11.30判決 損害賠償請求事件(出典 判例時報2397号14頁)
 
★チェックポイント
  生産委託契約において,委託者には,受託者が工場の再稼働に伴う初期投資費用を回収し採算を維持することができるように配慮すべき契約上の附随義務があるか(積極)
 
■事案の概要
  Xは,平成20年6月頃,Yから,一旦閉鎖したXの工場をYの子供服の国内専用工場として再稼働して欲しい旨強く要請され,Xにおいて事業採算性を試算した結果,年間6万枚,売上高1億5000万円程度が採算ラインであることを前提として,ⅩY間でⅩの工場の再稼働について一応の合意が成立した。
Xは,新たな設備投資を行い,閉鎖の際に解雇した熟練工を再雇用するなどして上記採算ラインを想定した生産体制を整え,平成21年8月1日に工場を再稼働した。この間,Xは,平成21年1月に,生産期間を短縮又は生産金額を縮小した場合はXの損害をYが保証する旨の保証条項を含む覚書案をYに交付したが,Yから修正等の指摘は無かった。
  しかし,同月3日,YからXに対し,修正案が送付され,Xは後戻りできない状況の中でYと交渉した結果,下記概要の契約が成立した。
⑴ 生産を委託する規模は一年間で数量6万枚,金額1億5千万円を目安とし,Yは一年を通じて可能な限り平均的に委託し閑散期の生産に配慮する,
⑵ Yは,Xが負担する工場設備に対する先行投資費用や従業員の雇用に伴う責務等に考慮し,信義誠実に従い,合理的な理由なく委託規模が著しく縮小することの無いよう努力する,⑶ 契約期間を平成21年8月1日から平成24年7月31日までの三年とし,契約満了の6カ月前までにXYいずれからも契約を更新しない旨の申出がない限り自動的に同内容で更新し,その後も同様とする。
  その後,工場の売上高は,1年目5825万2600円,2年目6587万1400円,3年目3694万3880万円と推移し,目安とされた年間売上高の三分の一前後にとどまった。そして,本件生産委託契約は,一度は自動更新されたものの,二度目の更新は行われず,平成27年7月31日に終了した。
 
■判旨 
  本件契約に至る経緯及び本件契約の内容などの諸事情に照らせば,Yは,年間6万枚,1億5000万円の水準の生産委託規模を目安として,これが合理的理由なく著しく下回らないように発注し,少なくとも当初の契約期間である三年間においては,Xが工場再稼働に伴う初期投資費用を回収し,採算を維持することができるよう配慮すべき契約上の付随義務を負うというべきである。
 
★コメント
1.本件では,以下の事情が考慮されている。
 ① ⅩはYの要請を受けて閉鎖した工場を再稼働した。
 ② XY間に,発注量と年間売上高に関する中間的合意があった。
 ③ Ⅹは,この中間的合意に基づいて設備投資を行い,熟練工を再雇用するなど初期費用を投じて再稼働に漕ぎ着けた。
 ④ Ⅹが提示した覚書案に対し,Yから格別指摘がないまま約7カ月が経過し,この間に再稼働に漕ぎ着けたⅩは,撤退困難な段階で契約の修正を迫られて契約を締結した。
 ⑤ XYは契約条件として上記⑴ないし⑶を合意した。
2.原審は契約条件⑵に関してYに相応の努力があったことを認め,「合理的な理由もなくそのような状況に至ったと断ずることはできない。」としたが,控訴審は「Yに合理的な理由があったことが認められない。」とした。合意された発注量の目安に到達しなかった以上,Yが「合理的な理由」について主張・立証すべきことは当然である。
 
以上
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