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判例

相続を争族にしないために(4)ー遺言の利用についてー 

カテゴリ:相続
相続を争族にしないために(4)ー遺言の利用についてー 
 
1 遺留分
  遺留分制度は、相続をめぐる紛争発生のかなり大きな原因になっています。
遺言は、遺言者がその財産を自由に処分できるのが建前(遺言の自由)ですが、民法は、遺言の自由の建前の例外として、遺留分制度を設けています。この制度は、被相続人の家族(配偶者と直系血族)は、遺言に反しても遺産の一部を相続できるようにする目的のもので、例え遺言の自由があっても、遺産の一部は、家族の中に残しておくべきだとの考えから設けられました。
この家族の中に残しておくべき遺産を遺留分、それ以外の遺産で遺言者が完全に自由に処分できる遺産を自由分といいます。ただし、全遺産の中で遺留分が占める割合を遺留分ということがあります。ついでですが、家族(配偶者と直系血族)を遺留分権利者といいます。しかし、遺留分権利者であっても、その権利を行使しないことはその自由で、一定の期間遺留分減殺請求権を行使しなければ、遺言に反する権利主張はできなくなります。
遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使した場合、遺産のうちどれだけの額を相続できるかは、遺留分割合を基礎にして計算します。その計算方法は複雑なので省略しますが、計算の基礎となる遺留分割合は、法定相続分の半分で、遺留分権利者が配偶者と長男、長女だけならば配偶者は4分の1、子供はそれぞれが8分の1です。遺留分権利者は、この遺留分を基礎にして計算した額(遺留分の額)に相当する財産を相続で貰えなかったならば、遺言で多く貰えることになっている相続人や遺贈を受けた受遺者に対し、遺留分の額の不足分を請求できるというのが、遺留分減殺請求権です。先の例で、遺産が自宅の土地建物と賃貸不動産だけの場合、その全部を長男に相続させる遺言をした場合、長男に対し、配偶者と長女は、遺留分の減殺請求ができ、長女だけが減殺請求をすると、遺産全部は、長男8分の7と長女8分の1との割合で共有になります(但し、これは、相続債務とか、生前贈与がないとしての話です。)。
2 遺留分減殺の防止
  遺留分減殺請求があって、遺産が共有となると、共有者間の紛争の種となるので、遺産の共有状態を避ける方法はないでしょうか。それには、遺留分権利者に遺留分の放棄があります。相続開始前に、遺留分権利者が、家庭裁判所に遺留分を放棄するとの申述をすると、その後は遺留分請求をすることはできません。
 また、相続人全員に遺留分相当の遺産を与える遺言をすれば、遺留分減殺請求はできません。
3 遺留分減殺への対応
  どうしても相続人全員に遺留分相当の遺産を与える遺言ができないときは、遺留分減殺請求が起こっても、紛争をできるだけ少なくする方法はないでしょうか。
 (1) 遺留分減殺順序の指定
 遺言でどの遺産から減殺するかの順序を指定することができます。先の例で、長男に自宅の土地不動産を残してその住居を確保してやりたいならば、長女は先ず賃貸不動産から減殺するようにという遺言をするわけです。そして、長女の遺留分の額が賃貸不動産の額より少なければ、長女の遺留分減殺請求があっても、賃貸不動産は長男と長女の共有になるが、自宅の土地不動産は長男の単独所有になります。また、長女の遺留分額に見合う遺産があれば、長女はその遺産から減殺するように指定する遺言をします。そうすると、他の相続財産は共有になりません(配偶者は減殺請求をしないものとします。)。
 (2) 代償金の支払い
 先に述べたとおり、遺留分減殺請求があると、遺産は共有になるが、共有物の管理は共有持分の価格に応じ多数決で決定しなければならず、共有物の処分は共有者全員の同意が必要であるなど、紛争が予想されます。これを避けるには、先程の例でいうと、長女は、遺留分減殺請求をしても、長男から遺留分の額相当の代償金の支払を受けたときはその他の遺産を受け取ることができないという遺言をすることができます。そうすると相続された財産が共有になるということはありません。
4 法律相談の勧め
  遺留分減殺請求を巡る紛争は面倒です。その発生・拡大防止策は、以上の方法には限りません。相続を巡る諸事情に応じて、できるだけ争族問題の発生を避け、もし発生しても争族問題が広がらないよう、遺言で対策を立てて置くに越したことはありません。そのためには、複雑な遺留分の制度をよく理解し、経験もある弁護士の助言を得て、適切な遺言をすることが必要です。
(文責:野田殷稔)
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