判例
判例チェック№92 最高裁第一小法廷決定R2.8.6決定・令和1年(許)第16号財産分与審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件(出典 最高裁HP)
2020-09-07
判例チェック№92
最高裁第一小法廷決定令和2年8月6日決定・令和1年(許)第16号財産分与審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件(出典 最高裁ホームページ)
★チェックポイント
財産分与の審判で,一方当事者の所有名義の不動産で他方当事者が占有するものにつき,他方当事者に分与しない判断をする場合,家庭裁判所は,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,その明渡しを命じることができるか(積極)
財産分与の審判で,一方当事者の所有名義の不動産で他方当事者が占有するものにつき,他方当事者に分与しない判断をする場合,家庭裁判所は,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,その明渡しを命じることができるか(積極)
■事案の概要
再抗告人と相手方は,婚姻中に,両名の協力によって本件建物を取得し,後に協議離婚した。現在,本件建物は,再抗告人が登記名義を有し,相手方が占有している。
本件は,再抗告人が,離婚後2年以内に,相手方に対し,財産の分与に関する処分の審判(以下「財産分与の審判」という。)を申し立てた事案である。そこで家庭裁判所では,家事事件手続法154条2項4号に基づき,相手方に対し,再抗告人に本件建物を明け渡すよう命ずることができるか否かが争われた。
ところで,家事事件手続法154条2項柱書きは,「家庭裁判所は,次に掲げる審判において,当事者(中略)に対し,金銭の支払い,物の引渡(中略)その他の給付を命ずることができる。」と規定し,その第4号に「財産の分与に関する処分の審判」を掲げている。
そこで,家庭裁判所は,本件建物を相手方に分与しないと判断するとともに,家事事件手続法154条2項4号に基づき,相手方は再抗告人に対し,本件建物を明け渡すよう命じる審判をした。因みに同法同条同項柱書きは,「家庭裁判所は,次に掲げる審判において,当事者(中略)に対し,金銭の支払い,物の引渡(中略)その他の給付を命ずることができる。」と規定し,その第4号に「財産の分与に関する処分の審判」を掲げている。
ところが原審裁判所は,本件建物を相手方に分与するべきものではないと判断したけれども,再抗告人の相手方に対する本件建物の明渡請求を退けた。その理由は,「財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た不動産であって,現在一方当事者(本件再抗告人)の所有名義となっている不動産を,他方当事者に分与しないものとされたときは,当該一方当事者(すなわち登記名義人でありかつ所有者である本件再抗告人)が当該他方当事者(すなわち占有者である相手方)に対し当該不動産の明渡しを求める請求は,所有権に基づくものとして民事訴訟の手続において審理判断されるべきものであり,家庭裁判所は,家事審判の手続において上記明渡しを命ずることはできない。」というのである。
もっとも,原審裁判所は,その上で,再抗告人は,財産分与により本件建物の所有権を取得し,民事訴訟の手続により,相手方に明渡を求めることができるものの,反対に,再抗告人は,相手方に対し,財産分与を原因として,2,099,341円の支払債務がある(その義務の性質・発生原因や,相手方の本件建物の明渡義務との引換給付となるか否かの関係などについては,本件最高裁決定では触れられていない。)として,再抗告人にその支払いを命じている。
本件は,再抗告人が,離婚後2年以内に,相手方に対し,財産の分与に関する処分の審判(以下「財産分与の審判」という。)を申し立てた事案である。そこで家庭裁判所では,家事事件手続法154条2項4号に基づき,相手方に対し,再抗告人に本件建物を明け渡すよう命ずることができるか否かが争われた。
ところで,家事事件手続法154条2項柱書きは,「家庭裁判所は,次に掲げる審判において,当事者(中略)に対し,金銭の支払い,物の引渡(中略)その他の給付を命ずることができる。」と規定し,その第4号に「財産の分与に関する処分の審判」を掲げている。
そこで,家庭裁判所は,本件建物を相手方に分与しないと判断するとともに,家事事件手続法154条2項4号に基づき,相手方は再抗告人に対し,本件建物を明け渡すよう命じる審判をした。因みに同法同条同項柱書きは,「家庭裁判所は,次に掲げる審判において,当事者(中略)に対し,金銭の支払い,物の引渡(中略)その他の給付を命ずることができる。」と規定し,その第4号に「財産の分与に関する処分の審判」を掲げている。
ところが原審裁判所は,本件建物を相手方に分与するべきものではないと判断したけれども,再抗告人の相手方に対する本件建物の明渡請求を退けた。その理由は,「財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た不動産であって,現在一方当事者(本件再抗告人)の所有名義となっている不動産を,他方当事者に分与しないものとされたときは,当該一方当事者(すなわち登記名義人でありかつ所有者である本件再抗告人)が当該他方当事者(すなわち占有者である相手方)に対し当該不動産の明渡しを求める請求は,所有権に基づくものとして民事訴訟の手続において審理判断されるべきものであり,家庭裁判所は,家事審判の手続において上記明渡しを命ずることはできない。」というのである。
もっとも,原審裁判所は,その上で,再抗告人は,財産分与により本件建物の所有権を取得し,民事訴訟の手続により,相手方に明渡を求めることができるものの,反対に,再抗告人は,相手方に対し,財産分与を原因として,2,099,341円の支払債務がある(その義務の性質・発生原因や,相手方の本件建物の明渡義務との引換給付となるか否かの関係などについては,本件最高裁決定では触れられていない。)として,再抗告人にその支払いを命じている。
■判旨
財産分与の審判において,一方当事者の所有名義の不動産で他方当事者が占有するものにつき,他方当事者に分与しない判断をした場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認められるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,その明渡しを命ずることができる。
★コメント
本判決は,上記判旨を導く理由として,次のとおり述べた上で,原決定を破棄し,本件を原審に差し戻した。
「財産分与の審判において,家庭裁判所は,当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して,分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることとされている(民法768条3項)。もっとも,財産分与の審判がこれらの事項を定めるものにとどまるとすると,当事者は,財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため,審判後に改めて給付を求める訴えを提起する等の手続をとらなければならないこととなる。そこで,家事事件手続法154条2項4号は,このような迂遠な手続を避け,財産分与の審判を実効的なものとする趣旨から,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者に対し,上記権利関係を実現するために必要な給付を命ずることができることとしたものと解される。そして,同号は,財産分与の審判の内容と当該審判において命ずることができる給付との関係について特段の限定をしていないところ,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき,他方当事者に分与する場合はもとより,分与しないものと判断した場合であっても,その判断に沿った権利関係を実現するため,必要な給付を命ずることができると解することが上記の趣旨にかなうというべきである。そうすると,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき,当該他方当事者に分与しないものと判断した場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,当該他方当事者に対し,当該一方当事者にこれを明渡すよう命ずることができると解するのが相当である。」
本判例を家事事件手続法154条2項及び同項4号との関係で言えば,建物の明渡しも物の引渡しに含まれ,また財産の分与に関する処分に含まれることを明かにしたものといえる。
「財産分与の審判において,家庭裁判所は,当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して,分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることとされている(民法768条3項)。もっとも,財産分与の審判がこれらの事項を定めるものにとどまるとすると,当事者は,財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため,審判後に改めて給付を求める訴えを提起する等の手続をとらなければならないこととなる。そこで,家事事件手続法154条2項4号は,このような迂遠な手続を避け,財産分与の審判を実効的なものとする趣旨から,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者に対し,上記権利関係を実現するために必要な給付を命ずることができることとしたものと解される。そして,同号は,財産分与の審判の内容と当該審判において命ずることができる給付との関係について特段の限定をしていないところ,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき,他方当事者に分与する場合はもとより,分与しないものと判断した場合であっても,その判断に沿った権利関係を実現するため,必要な給付を命ずることができると解することが上記の趣旨にかなうというべきである。そうすると,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき,当該他方当事者に分与しないものと判断した場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,当該他方当事者に対し,当該一方当事者にこれを明渡すよう命ずることができると解するのが相当である。」
本判例を家事事件手続法154条2項及び同項4号との関係で言えば,建物の明渡しも物の引渡しに含まれ,また財産の分与に関する処分に含まれることを明かにしたものといえる。
以上