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判例

判例チェック No.22 最高裁判所平成15年10月10日判決

カテゴリ:判例
判例チェック №22 
最高裁判所平成15年10月10日判決
 
(判例時報1840号18頁)
★チェックポイント
当事者が,より安全性の高い建物にするなどのために,特に工事内容について合意していた場合には,その合意に反した工事による建物は,たとえ当該建物が建物としての一般的な安全性を備えていたとしても,同建物には「瑕疵」があるといえる。
■事案
本件は,上告人(Y)から建物の新築工事を請け負った被上告人(X)が,Yに対し,請負残代金の支払を求めたのに対し,Yが,建築された建物に瑕疵があること等を主張し,瑕疵の修補に代わる損害賠償債権等と請負残代金債権との相殺を主張して,Xの上記請負残代金の請求を争う事案である。
Yは,平成7年11月,建築等を業とするXに対し,神戸市内において,学生,特に神戸大学の学生向けのマンションを新築する工事(以下「本件工事」という。)を請け負わせた(以下,この請負契約を「本件請負契約」といい,建築された建物を「本件建物」という。)。
Yは,建築予定の本件建物が多数の者が居住する建物であり,特に,本件請負契約締結の時期が,同年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により,神戸大学の学生がその下宿で倒壊した建物の下敷きになるなどして多数死亡した直後であっただけに,本件建物の安全性の確保に神経質となっており,本件請負契約を締結するに際し,Xに対し,重量負荷を考慮して,特に南棟の主柱については,耐震性を高めるため,当初の設計内容を変更し,その断面の寸法300mm×300mmの,より太い鉄骨を使用することを求め,Xは,これを承諾した。ところが,Xは,上記の約定に反し,Yの了解を得ないで,構造計算上安全であることを理由に,同250mm×250mmの鉄骨を南棟の主柱に使用し,施工をした。
なお,原審は,上記事実関係の下において,Xには,南棟の主柱に約定のものと異なり,断面の寸法250mm×250mmの鉄骨を使用したという契約の違反があるが,使用された鉄骨であっても,構造計算上,居住用建物としての本件建物の安全性に問題はないから,南棟の主柱に係る本件工事に瑕疵があるということはできないとしていた。
■判旨
「本件請負契約においては,上告人及び被上告人間で,本件建物の耐震性を高め,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため,南棟の主柱につき断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが,特に約定され,これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。そうすると,この約定に違反して,同250mm×250mmの鉄骨を使用して施工された南棟の主柱の工事には,瑕疵があるものというべきである。」
■コメント
「瑕疵」には主観的瑕疵と客観的瑕疵の双方を含むというのが,通説である。すなわち,契約当事者が一定の品質・性能を備えていることを前提として契約を締結した場合には,たとえ通常であれば当該目的物が備えるべき品質・性能を備えていたとしても,当該契約において給付すべき目的物としては主観的瑕疵があるといえる。また,契約当事者が,具体的な品質・性能について合意していなかった場合においても,目的物の性質上,当然備わるべき品質・性能を欠いている場合には,客観的瑕疵が認められる。
本判例においても,南棟の主柱の太さが「特に約定され,これが契約の重要な内容になっていた」ことから,本件建物の安全性には問題がなくとも,当該約定違反が「瑕疵」として認められており,判例も通説と同様の考え方を立つものといえよう。
なお,債権法改正にかかる法制審議会においては,瑕疵を「物の給付を目的とする契約において,物の瑕疵とは,その物の備えるべき性能,品質,数量を備えていない等,当事者の合意,契約の趣旨および性質(有償,無償等)に照らして,給付された物が契約に適合しないことをいう。」旨定義することが議論されている。(平成22年12月9日現在)
以上
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