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判例

判例チェックNo.30 (1)最高裁所第2小法廷平成19年7月9日判決 (2)最高裁判所第1小法廷平成23年7月21日判決

カテゴリ:判例
判例チェック №30
(1)最高裁判所第2小法廷平成19年7月9日判決・損害賠償請求事件
(民集61巻5号1769頁)
(2)最高裁判所第1小法廷平成23年7月21日判決・損害賠償請求事件
(最高裁ホームページ)

★ チェックポイント
(1)の判例(第1次上告審判決)
建物の設計者、施工者及び工事監理者(設計者等)は、当該建物につき建物利用者、隣人、通行人等に対する関係でも「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、不法行為による賠償義務を負担するか(積極)。
(2)の判例(第2次上告審判決)
(1)の判例にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」には,放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる瑕疵が含まれるか(積極)。
■ 事案の概要
Aは、鉄筋コンクリート造9階建50住戸からなる共同住宅・店舗の本件建物につきY2に建築工事を請け負わせ、Y1に建築の設計及び工事監理を委託し、工事完成の3か月後X1X2に売り渡し、Xらが居住を開始したところ、本件建物にひび割れ、はりの傾斜、鉄筋量不足、バルコニー手すりのぐらつきその他が生じたので、Xらは、交渉を経て工事完成の約6年後、Y2に対しては瑕疵担保責任及び不法行為責任に基づき、Y1に対しては不法行為責任に基づき、瑕疵修補費用等の賠償請求訴訟を提起した。第1審裁判所は、Xらの請求を一部認容し、双方が控訴し、第1次控訴審判決はXらの請求を全部棄却すべきものとする判決をしたので、Xらが上告した。第1次上告審判決は原判決の破棄差し戻しをした。
第2次控訴審判決は、第1次上告審判決の「基本的な安全性を損なう瑕疵」により「居住者等の生命、身体又は財産を侵害した場合に不法行為が成立するとの判示に従いながらも、筆者の責任で要約すると、現実にはこれらの侵害である事故が発生した訳ではなく、Xらは、瑕疵修補費用相当額を損害とする財産権(所有権)侵害を主張するに過ぎず、基本的な安全性を損なう瑕疵もなく、居住者等の生命、身体又は財産の侵害もないとの理由で、Xらの請求を棄却した。
Xらの再度の上告により、第2次上告審判決が言い渡された。
■ 本判例の要旨
(1)の判例(第1次上告審判決)
建物の設計に携わる設計者、施工者及び工事監理者は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者を含む建物利用者、隣人、通行人等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い、これを怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負う。
(2)の判例(第2次上告審判決)
第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」には、放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる瑕疵も含まれる。そして、この瑕疵には、構造耐力に関わる瑕疵、瑕疵を放置した場合通行人や建物の利用者の人身被害につながる危険のある瑕疵、漏水や有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険のある瑕疵が含まれるが、建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうに止まる瑕疵は含まれない。
■ コメント
 この2つの最高裁判例により、設計者等は建物の建築に当たり、放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化しないように配慮すべき注意義務があり、この注意義務の懈怠の結果建物に瑕疵が生じ、その瑕疵が放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化するものであって、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合、被侵害者に対し不法行為責任を負うとの不法行為類型が確立されたといえよう。そして、この不法行為理論は、今後様々に発展していくのではなかろうか。
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