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判例

判例チェック No.38 最高裁第三小法廷平成24年11月27日判決・平23年(受)第1400号損害賠償請求事件

カテゴリ:判例
判例チェック №38
最高裁第三小法廷平成24年11月27日判決・平成23年(受)第1400号損害賠償請求事件(出典 最高裁ホームページ)

★チェックポイント
シンジケートローンへのアレンジャーとして参加の招聘をした金融機関が?ローン債権者に対して信義則上の情報提供義務違反による不法行為損害賠償責任を負担するとされた事例
■裁判例の概要
(事案の概要)
Y銀行は、A会社からの委託を受けてアレンジャーとなり、Xn(銀行や信用金庫ら)に対し借受人Aへの本件シンジゲートローンへの参加を招聘した。ところが、Aは、これより先に、決算書に虚偽記載をしながら、メインバンクCをエージェントとするシンジゲートローン(先行シ・ローン)の借受をしていたところ、Aの代表取締役Bは、Cから決算書に不適切な処理の疑いが有り専門家による財務調査を経なければ 先行シ・ローンの継続はできない旨通告を受けたのに応じ、財務調査の実施を承諾し、先行シ・ローンの参加金融機関に対し、Aの決算書に不適切な処理がされた可能性があるので専門家の精査を依頼する旨の本件通知書面を送付した。
一方Yは、本件シンジケートローンの招聘先金融機関に配布した決算書について正確性・真実性についてYは一切の責任を負わず招聘先金融機関で独自にAの信用力等の審査を行う必要があるなどの説明をしていたところ、Aとの間で本件シンジケートローンの契約書調印手続の段階で、Aの代表取締役Bから、先行シ・ローンの参加金融機関に本件通知書面を送付した旨(この情報を「本件情報」という。)を告知されたにもかかわらず、Xnに秘匿して本件シンジケートローンの組成・実行手続を継続し、A及びXnから参加手数料を受け取った。その後、Aの粉飾決算の事実が判明し、Aは再生手続開始決定を受けた。XnはYに対し、シンジケートローンのアレンジャーとしての情報提供義務を怠ったとして不法行為に基づく損害賠償請求をした。第1審は請求棄却、控訴審は請求認容したので、Yは上告し、Xnらは金融機関として貸付取引に精通しており,Yが本件シ・ローンのアレンジャーであるからといって,被上告人らに対する情報提供義務を負うものではないから不法行為責任はないと主張した。
(判旨の概要)
「本件情報は,AのメインバンクであるCが,Aの平成19年3月期決算書の内容に単に疑念を抱いたというにとどまらず,Aに対し,外部専門業者による決算書の精査を強く指示した上,その旨を別件(先行)シ・ローンの参加金融機関にも周知させたというものである。このような本件情報は,Aの信用力についての判断に重大な影響を与えるものであって,本来,借主となるA自身が貸主となる被上告人らに対して明らかにすべきであり,被上告人らが本件シ・ローン参加前にこれを知れば,その参加を取り止めるか,少なくとも上記精査の結果を待つことにするのが通常の対応であるということができ,その対応をとっていたならば,本件シ・ローンを実行したことによる損害を被ることもなかったものと解される。他方,本件情報は,別件(先行)シ・ローンに関与していない被上告人らが自ら知ることは通常期待し得ないものであるところ,前記事実関係によれば,Bは,本件シ・ローンのアレンジャーである上告人ないしその担当者のEに本件シ・ローンの組成・実行手続の継続に係る判断を委ねる趣旨で,本件情報をEに告げたというのである。
これらの事実に照らせば,アレンジャーである上告人から本件シ・ローンの説明と参加の招へいを受けた被上告人らとしては,上告人から交付された資料の中に,資料に含まれる情報の正確性・真実性について上告人は一切の責任を負わず,招へい先金融機関で独自にAの信用力等の審査を行う必要があることなどが記載されていたものがあるとしても,上告人がアレンジャー業務の遂行過程で入手した本件情報については,これが被上告人らに提供されるように対応することを期待するのが当然といえ,被上告人らに対し本件シ・ローンへの参加を招へいした上告人としても,そのような対応が必要であることに容易に思い至るべきものといえる。また,この場合において,上告人が被上告人らに直接本件情報を提供したとしても,本件の事実関係の下では,上告人のAに対する守秘義務違反が問題となるものとはいえず,他に上告人による本件情報の提供に何らかの支障があることもうかがわれない。
そうすると,本件シ・ローンのアレンジャーである上告人は,本件シ・ローンへの参加を招へいした被上告人らに対し,信義則上,本件シ・ローン組成・実行前に本件情報を提供すべき注意義務を負うものと解するのが相当である。そして,上告人は,この義務に違反して本件情報を被上告人らに提供しなかったのであるから,被上告人らに対する不法行為責任が認められるというべきである。」
■コメント
本件判決は、シンジゲートローンという特殊の金融分野におけるアレンジャーのローン債権者に対する情報提供義務を金融機関間における信義則の注意義務として捉え不法行為責任を認めたものである。また契約関係にない第三者に対する信義則上の説明義務を認めた判例の流れの一つといえる。なお原判決(名古屋高裁平成23年4月14日判決、判例時報2136号45頁。なお第1審判決である名古屋地裁平成22年3月26日判決は判例時報2093号102頁に搭載)は、金法、金融法務事情等で度々取り上げられている。
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